複数の猫たちに囲まれて生活するのは、猫好きならば憧れですよね。実際に複数の猫たちと暮らしている飼い主さんも多いと思います。しかし、寝食トイレをともにし、時にケンカをすることもある多頭飼いは、感染症に注意が必要です。
そこで今回は、主な病気と対策について、獣医師の船田治子先生に説明いただきました!
■気をつけたい感染症
感染症とは、肉眼で見えない微生物に感染して発症する病気のことです。
(1)ウイルス感染症
・猫ウイルス性呼吸器感染症
冬に感染の多い疾患で、風邪症状が見られます。原因ウイルスのひとつであるカリシウイルスに感染すると、口内炎を起こして食事を取れなくなることもあります。免疫力の弱い子猫や高齢猫が感染すると、重篤な症状を呈します。感染した猫との接触やくしゃみ、唾液で飛沫感染します。
・猫伝染性腸炎(猫汎白血球減少症)
様々な消化器症状が見られ、重症になると40℃以上の発熱や血便を伴う激しい下痢を起こします。病原ウイルスは猫の体外でも数ヶ月間生きることもあり、感染力が強いことが特徴です。感染した猫の便、尿、唾液に触れることで感染が成立します。
・猫免疫不全症(猫エイズ)
免疫力が落ちて様々な病気にかかりやすく、また、治りにくくなります。比較的よく見られる症状は口内炎ですが、その他下痢、皮膚炎、鼻炎などが慢性的に続きます。全身のリンパ節が腫れることもあります。ウイルスは唾液中に含まれるので、ケンカ傷などから感染しますが、感染力はそこまで強くありません。
・猫白血病ウイルス感染症
猫免疫不全症と同様にさまざまな病状を呈します。また、血液中の血球がガン化する白血病を引き起こします。ケンカ傷や、直接唾液や尿に接触することで感染します。
・猫伝染性腹膜炎
症状は目、神経、内蔵などに異常が現れるドライタイプと、腹水や胸水が貯留するウエットタイプがあります。感染を受けても発症しないこともありますが、ウエットタイプの症状が出現すると、死亡する確率が高くなります。唾液や尿から感染しますが、感染力は弱いと言われています。
(2)ウイルス以外の感染症
・クラミジア感染症(細菌の仲間)
一般的な風邪症状に加え、目の症状が顕著です。眼結膜が腫れたり目やにが多くなったりします。
■寄生虫やカビ
(1)内部寄生虫
猫回虫、猫鉤虫、条虫類、コクシジウムなどで、いずれも下痢や栄養状態が悪くなることがあります。特に、子猫では大きな影響が出やすいので注意しましょう。
(2)外部寄生虫
ノミ、ダニ(皮癬ダニ、耳皮癬ダニ、ツメダニ)などです。いずれもかゆみ、皮膚炎、外耳炎などを生じます。
(3)皮膚糸状菌
カビの仲間で皮膚に丸く脱毛部位ができます。無症状で皮膚に常在することもあります。この菌は猫から他動物にも人にも感染します。
■対策について
(1)抗体検査
血液中の抗体検査によって感染の有無をチェックできるウイルス感染症もあります。猫白血病と猫免疫不全症については、比較的簡易な方法で調べることができます。
先住猫も新しく連れてくる猫も抗体が陰性ならばよいのですが、どちらかが陽性の場合多頭飼育はおすすめできません。しかしどうしても飼育しなければならないなどの場合は、できれば別の部屋で、食器・トイレなどを分けて飼育するなどの対策をしましょう。そして、将来発症したときに治療、看護が必要なことも理解した上で飼育してください。
検査の結果が陰性で、室内飼いを続けるのであれば、そのあとに感染を受ける可能性は非常に少なくなります。
(2)ワクチン接種
通常、猫ウイルス性呼吸器感染症(猫ウイルス性鼻気管炎、ネコカリシウイルス感染症)と、猫伝染性腸炎の三種混合ワクチン接種が多いと思います。
猫白血病ウイルス感染症、クラミジア感染症、猫免疫不全ウイルス感染症のワクチンもありますが、その選択については猫の飼育環境や室外へ出ることがあるかどうかなどから、かかりつけの獣医師と相談して決めましょう。
(3)糞便検査
寄生虫卵、原虫(コクシジウム)を検出した場合は、動物病院で寄生虫の種類に応じた駆除薬を投与します。
(4)ノミ・ダニの予防
ノミ・ダニの予防、駆除薬は動物病院で処方してもらいましょう。
複数の猫たちの健康を保つためには、飼い主さんの努力も必要です。可能な検査や予防の種類も増えてきましたので、詳しくは動物病院で相談しましょう。日常生活ではトイレや食器などの清潔を保ち、部屋の掃除をまめに行いましょう。また、室内飼いで外に出さないことも感染症の予防のひとつです。
筆者も長年に渡り、複数の保護猫たちとの生活を楽しんでいます。みなさんも感染症について正しい理解を持ち、素敵な日々を送ってくださいね。
※ 本サイトにおける獣医師および各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。また、獣医学の進歩により、常に最新の情報とは限りません。個別の症状について診断・治療を求める場合は、獣医師や各専門家より適切な診断と治療を受けてください。
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【参考】
※ 小野憲一郎ほか編(1998)『イラストでみる猫の病気』講談社.
【画像】
※ Linn Currie, Knock1986, NataVilman, New Africa / Shutterstock
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