わんにゃの健康と病気

【獣医師執筆】病気を早期に発見するために、飼い主さんが気を付けるべきこと

吉本翔

獣医師
吉本翔

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【獣医師執筆】病気を早期に発見するために、飼い主さんが気を付けるべきこと

「愛犬の毛が薄くなってきた気がする」、「愛猫の飲む水の量が増えている気がする」など、ペットのちょっとした異変を感じた時、飼い主の皆さんはどのように対応していますか?ちょっとした異変が何かしらの病気を示唆しているかもしれないと疑い、動物病院をすぐに受診する人もいるかもしれません。異変には気づいたとしても、年齢のせいだろう、暑いからだろうと考え、放っておく人もいるでしょう。

実はこれらのちょっとした異変が、怖い病気を示唆する症状であったというケースがしばしばあります。時には、早期に対処しなかったが故に重症化してしまった、最悪の場合ペットの命を救えなかったということもあります。

この記事では、あの時異変に気づいていたのに...と後悔してしまう飼い主さんを一人でも減らせるように、国内の犬猫の病気の概要やペットの異変に気づいた時の対処法について解説します。

 

■国内の犬猫の平均寿命と主な死亡原因

国内の犬猫の平均寿命と主な死亡原因
出典:https://www.shutterstock.com/

一般社団法人 ペットフード協会が実施した「全国犬猫飼育実態調査」の結果によると、国内の犬の平均寿命は約14歳、猫の平均寿命は約15歳であると報告されています1)。また人間の平均寿命と同様に、犬猫のいずれも平均寿命が年々伸びています。その理由には予防接種により感染症の予防が普及したこと、獣医療の発展により診断法・治療法が進歩したこと、フードの質の向上(療法食を含む)などが挙げられます。

1900年代は感染症など中高齢になる前に発症する病気がペットの命を脅かしていましたが、今では予防接種により多くの病気の発症が防げるようになりました。一方で平均寿命が伸びるに伴い、今では中高齢以上で発症する病気がペットの死因の多くを占めるようになりました。調査機関により報告のばらつきが少しあるものの、犬の死亡原因トップ3は、がん・心臓病・腎不全、猫の死亡原因トップ3は腎不全・がん・感染症※1となっています2)。

ペットの主な死亡原因に含まれている病気のうち、がん、心臓病、腎不全の特徴は、いずれも進行する病気であり、早期に発見して適切に治療を行うことが重要です。なかでもがんの場合は、早期に発見していれば手術により完治できるケースも多々ありますが、発見が遅れて進行してしまうと完治が極めて難しくなります。心臓病や腎臓病も進行するとわんちゃんねこちゃんにとって苦しい病気です。完治することは難しいものの、早期に発見して適切な治療を行えば、比較的健康に近い状態で生活できる時間が長くなります。

※1ねこちゃんの場合は猫伝染性腹膜炎という病気があり、依然として若齢での感染症による死亡が多く報告されています。

 

■病気の早期発見のために意識すべきこと

病気の早期発見のために意識すべきこと
出典:https://www.shutterstock.com/

病気の早期発見・早期治療が重要であるといっても、ペットのちょっとした異変に気づき動物病院に連れていく判断をすることは難しいのが現状だと思います。なぜなら、ペットは自身の苦しみを言葉で伝えることができませんし、多くの動物は病気が悪化するまで明らかな症状を示さないからです。

異変に気付いたら動物病院に行くというのがベストではあるものの、ちょっとした異変に気付く度に毎回動物病院に行くのも金銭的・時間的に厳しいと感じる飼い主さんも多いと思います。様子見をしがちですが、もしも元気あるいは食欲が明らかに低下している場合には危険な病気が隠れている可能性があるので動物病院の受診を強く推奨します。

また、普段からペットの様子を確認しておきましょう。飲む水の量が増えたり減ったりしていないか、体重が増減していないか、咳が増えていないか、吐く回数が増えていないかなどです。生理的な現象の範囲内のこともありますが、症状が悪化している場合には病気が隠れている可能性があります。

一方で、病気が隠れていても全く症状を示さないケースもあります。その場合は、定期的な健康診断(年1回以上を推奨)を行うことで病気を発見できることがあります。後々症状が現れ始めてから病院に行くのではなく、症状を示す前に病気を発見できるのがベストです。特に、病気の発生率が増え始める中高齢(7歳以上)の場合、定期的な健康診断を強く推奨します。

 

■動物達の苦しみのサインを汲み取るアプリについて

動物達の苦しみのサインを汲み取るアプリについて
出典:https://www.shutterstock.com/

病気の早期発見のためには、ちょっとした異変に気付いたときに動物病院を受診した方が良いことは明らかですが、実際には動物病院への受診を後回しにしてしまうケースがしばしばあると思います。例えば、「愛犬の毛が薄くなってきた気がする」、「愛猫の飲む水の量が増えている気がする」といった異変を感じても、よほどのことがない限り動物病院を受診する意思決定をするのは難しいのではないでしょうか。

そのような飼い主さんの皆さんの悩みを解決するために、筆者が所属するチームANICLE※2ではAI技術を駆使したアプリを開発しております。このアプリでは、ペットの情報や症状を入力すると、膨大な獣医論文から学習させたAIにより、どのような病気の可能性があるのか、どのくらいの緊急事態なのか、もし動物病院に行った場合にどれくらいの費用が想定されるのかなどを知ることができます。

さらに、アプリ上で動物病院の受診予約や事前問診を共有する機能の実装も予定しております。現在、β版アプリが完成しており、2021年に完全リリース予定です。現在、アプリの事前登録を受け付けておりますので、ペットのもしもの時に備えたい飼い主さんは是非登録お願いします!

 

飼い主さんの不安を解決するアプリ

※2 ANICLEは、IT技術や研究の力を駆使して、ペット業界に存在する課題を解決することを目指しています。チームメンバーは獣医師、AIエンジニア及び数学者から構成されています。現在は、多数の専門家が協力して、ペットの病気を早期発見するためのアルゴリズム開発に毎日励んでおります。これまでにANICLEの取り組みの社会的価値を評価され、東京大学主催のアントレプレナーシップ・チャレンジ20205)で最優秀賞、東京大学運営のスタートアップ支援プログラムFoundX Pre-founder programに採択されました。また、東京都主催のコンテストTokyo Startup Gateway 2020にてファイナリストに選出されています。

1)「令和元年 全国犬猫飼育実態調査」一般社団法人 ペットフード協会https://petfood.or.jp/data/chart2019/index.html
*本調査は、一般世帯で飼育された犬猫のデータの集計であり、野良犬・猫、ブリーダーやペットショップでの犬猫のデータは含まれておりません。
2)アニコム 家庭どうぶつ白書 2019
https://www.anicom-page.com/hakusho/
3)東京大学アントレプレナー道場
https://www.ducr.u-tokyo.ac.jp/activity/venture/education/challenge_2020
4)東京大学FoundX
https://foundx.jp/
5) Tokyo Startup Gateway 2020
https://tokyo-startup.jp/qualifiers2020

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【参考】

※ 小山秀・辻本元著(2015)『犬と猫の治療ガイド2015』インターズー

【画像】

※ Cryptographer, violetblue, Yevgen Romanenko, sanjagrujic / Shutterstock

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