わんにゃの健康と病気

【獣医師執筆】犬に多い歯周病!原因や症状、適切なケアや予防法を理解しよう

佐藤貴紀

The vet 南麻布動物病院 獣医師
佐藤貴紀

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【獣医師執筆】犬に多い歯周病!原因や症状、適切なケアや予防法を理解しよう

愛犬の口臭が気になったことはありませんか?実に3歳以上の犬の約8割が歯周病にかかっているといわれていますが、放置されることが多い病気のひとつです。

そこで今回は、獣医師の佐藤貴紀先生に、犬の“歯周病”について原因や症状、適切なケアや予防法を解説いただきました。

歯周病の種類

歯周病には、大きく分けて歯肉炎と歯周炎があります。

歯肉炎とは、歯肉のみに炎症がある病態で、予防歯科処置(歯石除去など)で十分回復が見込めます。歯肉炎の状態では、歯周病菌と歯周の抵抗力は均等を保っている状態といえ、歯肉組織、歯根膜、歯槽骨などの歯周組織は維持されています。しかし、歯肉炎の状態が長期的に続き、個体の体力や免疫力が落ちてくることで、歯周組織が破壊されると歯周炎に至ります。

歯周病の原因

    パグの体調が悪い写真
    出典:https://www.shutterstock.com/

    歯周病を引き起こす主な原因は歯石です。

    歯石は、歯周病菌の塊である歯垢に唾液中のミネラルが沈着することで形成されます。歯みがき後20分ほどで歯の表面にペリクルという糖タンパク質でできた被膜が形成されますが、そこに微生物が増殖し、6~24時間に歯垢に変化します。そして、歯垢に唾液中のミネラル成分が絡み3~5日で歯石が形成されるといわれています。

    歯垢は、それ自体がネバネバとした細菌の塊ですが、歯石になる前であれば、丁寧に歯みがきすることで除去することができます。見た目は歯がなんとなく黄色い、汚れがついている程度にしか見えません。歯垢が歯石になってしまうと、もう歯ブラシでは除去することは難しくなります。

    一旦歯石が出来てしまうと、段々と歯石範囲が大きくなり歯肉の炎症を起こし歯周ポケットなどを形成します。歯みがきをしても歯周ポケットを掃除できなくなり、結果として歯周病が外からでは気づかないうちに、どんどん深い方に進んで行ってしまうことになります。

    歯周病は数ある犬の病気の中でも最も多く、3歳以上の犬では約8割がかかっているといわれているほどです。

    歯周病の症状

    ベッドで横になっている犬
    出典:https://www.shutterstock.com/

    歯周病になると、「口の辺りを気にする」「柔らかいものしか食べなくなる」「ヨダレや口臭が増える」などの症状が見られます。重度になると、食欲不振を起こしたり、食事中に痛みで奇声をあげたり、目の下や顎が腫れてきたりすることもあります。

    また、「鼻水が濁っている」「くしゃみが増えた」などの症状も歯周病が悪化した状態でよく起こります。ただ犬の場合、弱みを外に出さないことが多いため、症状がわかりづらいこともあります。

    歯周病は口腔内の疾患だけと考えがちですが、菌から放出される菌体毒素がさまざまな臓器へ影響を及ぼし、いわゆる歯周病関連疾患を発症します。例えば、犬において心筋の変性や糸球体腎炎など体全体への影響が報告されています。

    人との違い

    人の口内の病気といえば虫歯ですが、犬は虫歯にはほとんどなりません。(ならないわけではありませんが)

    これは、人間の口の中が酸性なのに対し、犬ではアルカリ性という環境の違いや、歯の形の違い(犬は歯が尖っている)、犬では唾液中のアミラーゼが少ないことなどによるといわれています。

    ※犬では他に、硬いもの(アキレスや蹄)を与えていることによる歯の破折(歯が折れること)、歯並びの異常(小型犬や短頭種に多い)なども起こりやすいです。

    適切なケア・予防法

    犬の歯みがき
    出典:https://www.shutterstock.com/

    歯周病にならないための適切なケア・予防法をご紹介します。

    <食後の歯みがきケア>

    粉も売られており、また犬用の歯ブラシも出ています。実際に犬の口は犬種にもより様々です。歯周病が問題になるのは小型犬が多く、口が小さいため先が小さい歯ブラシを使用します。歯ブラシが難しい場合は歯みがきシートを使用しましょう。

    <飲水>

    水を飲むことによって口の中の洗浄を行い、細菌増殖などを防ぐとともに食渣などを取り除きます。さらには、水に混ぜる歯みがきケア用品も販売されています。

    <犬用ガム>

    ガムを噛ませることで、唾液をより産生させて浄化させます。ただ与えるのではなく、噛ませることがとても大事です。

    <口腔内スプレー>

    口の中に直接かけるスプレーです。これで歯石が取れたり、歯周病が治るわけではありませんが、ケアに繋がります。

    歯石がついてしまった場合の処置

    チワワが犬の歯石を取っている写真
    出典:https://www.shutterstock.com/

    一番大切な事は、歯石を取り見た目が綺麗にするだけが目的ではなく、歯周病を改善させる事が目的ということです。その際、処置に関して麻酔による処置か無麻酔による処置のどちらが適切かは、かかりつけ獣医の診断のもと、行うことをお勧めします。

    かかりつけ医により歯周病が診断され、歯石を取り除く必要がある場合には2通りの方法があります。

    無麻酔歯石除去

    ・犬や猫の場合、無麻酔で行おうとした場合に暴れる可能性もあり、非常に危険なこと。これは無理な体制を取らせる事で、脊椎への負担や顎を無理に抑えて骨折をさせてしまうケースもあるため、身体への負担がとても大きい事がわかります。

    ・無麻酔で行う場合、鋭利な機材を使用する事が多いですが、一時的に歯石は取れるものの返ってその後に歯石が付着しやすくなること。歯のエナメル質が無駄に削れてしまうため、危険です。

    <メリット>

    1.麻酔による副作用の心配がない

     <デメリット>

    1.歯の裏側など歯石を全部取りきれず、歯周病や口腔内腫瘍を見逃す恐れがある

    2.歯石を取る際に、顎の骨などを折ってしまうことがある

    3.治療の際に動かないようにするため、体への負担がかかる

    4.鋭利な器材を使用するため、歯の表面を傷つけ、返って歯石がつきやすくなることや歯肉の炎症をまねく

    麻酔による歯石除去

    <メリット>

    1.歯石を取る際に、奥歯や歯の裏側など隅々まで観察でき、病気を見逃さない

    2.超音波スケーラーを使用し、歯を傷つけずに歯石除去を行う事ができる

    3.歯周病になっている場合は、歯周ポケットという歯の根っこに問題が生じている事が多く、その部分の消毒などを行う事ができる。

    <デメリット>

    1.麻酔の危険性を考慮しなければならない

    いわゆる歯周病を改善させるためには歯石を取る必要がありますが、高齢、病気による麻酔がかけれない場合を除き、必ずと言っていいほど麻酔をかけてからの処置が必要になります。

    <麻酔が必要な理由>

    ・歯石が歯肉との隙間にも存在し、うまく取りきれない事で歯周病が治らないことや、さらにそこには細菌が増殖している可能性もあるため、念入りな除去が必要です。また、念入りに見ないと歯の根っこに問題が起きている事(歯根膿瘍)があるため見える場所の歯石を取り除くだけでは意味がありません。

    ・麻酔をかけレントゲン検査を行う事で、歯を抜かなければいけないことや歯周病になっている場所の特定が行えます。

    ・歯の裏側や一番奥に存在する歯などの歯石除去は無麻酔で取りきる事は不可能です。

      人と同様に口腔内ケアは病気になる前のケアがとても大事といえます。ケアをしていても、必ずといっていいほど歯周病になるリスクはありますが、常日頃から口を触らせることを嫌がらないコミュニケーションを取り、食後に定期ケアを行うことをお勧めします。かかりつけの獣医師と相談しつつ、適切な処置を受けるよう心がけてください。

      『歯みがきわんにゃガム』

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