近年は“保護猫カフェ”が全国各地に次々と誕生。殺処分ゼロ掲げ、犬猫の命を救おうとする保健所も増えてきました。しかし、各都道府県によって殺処分ゼロへの意識に差があったり、保健所側も動物の命をどう救うか悩んでいたりと、全国的に動物を取り囲む状況が改善してきているとは言い難い部分があります。
現に、2017年の都道府県別の犬猫全体の殺処分率が最も高かった和歌山県も、10年前に比べると犬の殺処分数は1/4、猫は半分に減少していましたが、まだまだ多くの命を処分しなければならないという現状に苦しんでいました。
そこで思いついたのが“ふるさと納税”を活用し、猫の殺処分を減らすこと。和歌山市が行った斬新な取り組みはテレビや新聞、ウェブニュースにも取り上げられ、大きな話題に。
今回は取り組みの全貌や行おうと思った理由などを、和歌山市の生活保健課動物保健班、廣岡貴之さんに直接取材。取り組みの裏側と現状を教えていただきました。
■「ガバメント・クラウド・ファンディング」で猫の命を救いたい!
―本日は宜しくお願い致します。早速ですが、そもそも、なぜ猫の殺処分を減らそうと思われたのでしょうか?
廣岡さん:和歌山県と和歌山市では平成28年度から共同で、不幸な猫をなくすことや周辺環境の保全を目的とした地域猫対策を行っています。この対策では地域猫の不妊去勢手術に必要となる費用の全額を和歌山県が助成しています。
和歌山市では2019年10月に開設が予定されている『和歌山市動物愛護センター(仮称)』でも地域猫対策を更に進めていきたいと考えていましたが、それに要する費用が十分に確保できない可能性があったので、“ガバメント・クラウド・ファンディング(GCF)”(自治体が行うクラウドファンディングのこと)を行おうと考えました。
市内だけではなく、全国の方々にも多くの猫たちが殺処分されていることを知ってもらい、動物愛護の機運を高めて少しでも殺処分減少に繋げたい……という思いもありました。
―犬ではなく、猫にスポットを当てたのはどうしてなのでしょうか?
廣岡さん:犬の殺処分は年々減少していますが、猫の殺処分は減少が見られず、苦情が寄せられることも多いのです。だからこそ、地域猫にスポットを当てたプロジェクトを行おうと考えました。
―ガバメント・クラウド・ファンディングでは、実際にどのくらいの期間で目標金額を達成されたのでしょうか? また、最終的にはいくら集まったのでしょうか?
廣岡さん:2018年5月23日から2018年12月31日までの期間で、 27,902,545円もの資金を集めることができました。返礼品がないのにも関わらず、当初の目標金額であった18,000,000円は2018年11月21日に達成することができました。
―集まったお金は今後、具体的にどう活かされるのでしょうか?
廣岡さん:不妊去勢手術に必要な備品類(麻酔装置、手術台など)に使わせていただきます。
■ふるさと納税を通して気づいた人々の動物愛
―ガバメント・クラウド・ファンディングを行ったとき、周囲からはどんな反響が寄せられましたか?
廣岡さん:開始当初は実はそれほど反響はありませんでした。しかし、何らかの形で動物愛護に関心のある方々に情報が広まったのか、後半になると様々な応援メッセージとともに、寄附金が多く集まるようになりました。
「ご活動、心から応援しております。不幸なわんちゃん、ねこちゃんがゼロになるように祈っております。頑張ってください」
「わが家にも三年前に保護した猫が2匹います。和歌山市の取り組みに賛同します。命の重さを子供たちに伝えることのできる活動としても広めていただきたいと思います」
「素晴らしい取り組みをありがとうございます。すべての猫が幸せに生きられる社会になるよう心より祈っております」
「殺処分ゼロ応援しています!寄付することしかできませんが、よろしくお願いします」
このような心暖まる応援メッセージを168件もいただきました。
―ふるさと納税を猫の殺処分減に活かそうとしたとき、どのようなことが大変だと感じましたか?
廣岡さん:実施したときは、事務処理量の多さに参りました。しかし、本当に大変なのはこれからです。みなさまから寄せられた寄付金額に見合うだけの活動を行うことができるのか、という不安を感じています。
―こうした取り組みを行う中で、どのような気持ちを抱きましたか?
廣岡さん:ふるさと納税では返礼品の内容が、寄付金額に大きく影響します。そのため、返礼品がない当市のプロジェクトでは多くの寄付は見込めないと思っていました。しかし、最終的には市内だけではなく、全国のみなさまから目標金額を大きく上回る寄付金をいただくことができ、ありがたく思っています。
寄付者のみなさまは、純粋に当市の取り組みに賛同していただいたものと思われます。自らが暮らしている町の動物だけでなく、遠く離れた地域の動物の命にも思いを馳せてくださる方々が多くいることを今更ながら再認識し、胸が熱くなりました。
だからこそ、寄付者の皆様の思いにこたえるためにも「このプロジェクトは必ず成功させなければならない」と、決意を新たにすることもできました。寄付者のみなさまの善意に見合うだけの活動ができるのかという不安はありますが、みなさまのお気持ちを心の支えとして活動を行っていきたいです。
■『和歌山市動物愛護センター』を開設して救える命を増やす
―ふるさと納税を募る前と現在を比較すると、猫たちを取り囲む状況に変化は現れているのでしょうか?
廣岡さん:現在は、プロジェクトに必要な備品類の購入を行っています。プロジェクトの開始は『和歌山市動物愛護センター』の開設後になるため、現時点ではまだ状況に変化は見られていません。
―従来の施設とは、どのような部分が異なるのでしょうか?
廣岡さん:下記のような違いが見られます。
今回のプロジェクトでは地域猫にスポットを当てていましたが、開設予定の『和歌山市動物愛護センター』では、譲渡候補の犬にも不妊去勢手術を実施します。
―ドッグランも併設された新施設では動物が伸び伸びと過ごせそうですね! では、最後に読者に伝えたい情報やお話しなどがありましたら教えてください。
廣岡さん:ガバメント・クラウド・ファンディングによる寄付金の募集は終了しましたが、当市では来年度も動物愛護事業に対する寄付金を募集する予定です。引き続きみなさまからのご協力をお待ちしております。
―こちらもぜひチェックして、動物に優しい社会を少しずつ築いていきたいものですね。今回は貴重なお話しを聞かせてくださり、ありがとうございました!
ふるさと納税で猫の命を救おうとする和歌山市の挑戦は、まだ始まったばかりですが、この一歩は猫の殺処分を減らすための大きな礎となっていくはず。今後の活動にも注目しつつ、私たちもどうすれば動物たちの命を守っていけるのか、考えていきたいですね。
【取材協力】
※ 和歌山市 生活保健課動物保健班 廣岡貴之さん
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【画像】
※ 和歌山市
※ Lee waranyu, S1001, Nitikorn Poonsiri, Africa Studio / Shutterstock
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