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【獣医師執筆】まずは基本について理解しよう!話題の「クローン犬」について~第1段~

北森隆士

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北森隆士

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【獣医師執筆】まずは基本について理解しよう!話題の「クローン犬」について~第1段~

韓国の企業(Sooam Biotech)が、亡くなった愛犬の体の細胞からクローン犬を作成・販売をしていて話題です(※1)。

ところで、クローンというと、みなさんは何をイメージしますか? もしクローンが“姿かたちも運命もまったく同じもの”と思っていたら、それは間違いです。 

2000年代初頭、クローン猫が一時話題になりました。レインボーという名前の三毛猫からクローン猫が作製され、CCと名付けられました。

しかし生まれたCCは、二毛猫で、体型も性格も異なっていました(※2(図3参照))。今では当たり前に知られた現象ですが、当時はクローンなのに似てないと話題になりました。

クローン犬は一部で話題のようですが、あまり知られていないクローンの実態について、2回に分けてお話します。第1回目はクローンの概略です。

■クローン(clone)の元々の意味

まずは基本について理解しよう!話題の「クローン犬」について~第1段~
出典:https://www.shutterstock.com/

クローンの言葉の由来は、ギリシャ語のKlon=分枝、挿し木。例えば、ソメイヨシノの椄木のように、遺伝的に同一な細胞、個体群が増えたものをイメージしてください。

■クローン動物・生物とは

まずは基本について理解しよう!話題の「クローン犬」について~第1段~
出典:https://www.shutterstock.com/

ゲノム(後述)が同一の個体。自然界では、

・分裂(無性生殖)で増えるアメーバなど

・ミツバチ(次回に説明)

・ギンブナ(※3)

・ある種のアリ(※4)

などが存在します。一卵性の双子もゲノムは同一ですが、クローンとは通常呼びません。

■ゲノム、遺伝子、DNA、染色体とは?

意外と混同されて使用される言葉です。DNAは物質名で、存在として可視化できます。

まずは基本について理解しよう!話題の「クローン犬」について~第1段~
出典:北森ペット病院

※ 犬のDNA(矢印、当院の研究用サンプル)

細胞の核の中のDNAを取り出して伸ばすと2mにもなります。そのうち、蛋白質作成の暗号となるDNA部分(場所)が遺伝子です。ゲノムは、DNAに刻み込まれた全遺伝情報(蛋白質作成の暗号部分以外もすべて含む)。

獣医師で高名なゲノム研究者の鵜木元香先生は音楽CDに例えて、DNAはCDという物質、遺伝子は楽曲、ゲノムはCDに記録されているすべてのデータ(楽曲、ノイズ、無音部など)と、表現しています(※1)。

まずは基本について理解しよう!話題の「クローン犬」について~第1段~
出典:北森ペット病院

※ 当院の犬の遺伝子のDNA配列(写真①のDNAの配列を機械で読み取ります)

染色体は、ヒストンという物質にDNAが巻きついた構造物です。鵜木先生の表現に付け加えるならば、音楽CDをケースに入れた状態でしょうか。

■クローン動物の種類・作製方法(※3)

まずは基本について理解しよう!話題の「クローン犬」について~第1段~
出典:https://www.shutterstock.com/

(1)卵分割クローン

昔からある畜産の技術で、交配後、受精卵を一度取り出して、2分割して、再度母親に戻す方法。生物学的には一卵性の双子。

(2)核移植クローン

受精卵が成長して細胞数が増えた段階で、各細胞から核を抽出し、予め核を除いたメスの卵子に注入し、それを仮親の子宮に移植する。

(3)体細胞クローン

一般的に、クローンとはこれを指します。クローン犬やクローン猫のCCを作成した方法です。皮膚や筋肉などの体細胞から核をとりだします。その核を、予め核を除いた受精卵に注入して子宮に戻します。

生まれてきた動物は、体細胞提供動物と誕生に関与した?という意味では、親子のイメージですが、delayed twin(遅れて生まれた双子)ともいえます。

このクローン作製の成功で、人類は大人のどこの細胞をとっても、その細胞は初期化が可能で、一から個体が作れるという不思議さを知ったわけです。

次回はゲノムが同じクローンでも、性質は全く同じではなく、運命は違うという話をします。

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【参考】

※1 死んだペットが10万ドルでよみがえる(文字どおり) クローン犬誕生の現場に立ち会った【動画あり】

※2 なぜ?なに?エピゲノム: 日本医療研究開発機構・戦略的創造研究推進事業 国際ヒトエピゲノムコンソーシアム 日本チーム

※3 鵜木元香(2016)『生まれつきの女王蜂はいない』講談社.

※4 長谷川英祐(2014)『面白くて眠れなくなる生物学』PHP出版.

※5 広岡博之(2009)『畜産分野におけるクローン技術の応用とその倫理的評価』生命倫理, 10(1).

【画像】

※ 北森ペット病院

※ Jaromir Chalabala, Tonic Ray, rtbilder, lesni.liska / Shutterstock

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