わんにゃの健康と病気

【獣医師執筆】慌てず冷静に対処しよう!犬の「痙攣」について解説

西原克明

獣医師
西原克明

いいね 14

【獣医師執筆】慌てず冷静に対処しよう!犬の「痙攣」について解説

2020620日情報更新

“痙攣”は普段なかなか目にすることのない症状ですよね。そのため、いざ直面すると慌ててしまう飼い主さんが多いそう。

そこで今回は、犬の痙攣について獣医師の西原克明先生に解説いただきました。詳しい症状や原因、対処方法について理解を深めてくださいね。

■痙攣には様々なパターンがある?

慌てず冷静に対処しよう!犬の「痙攣」について獣医師が解説
出典:https://www.shutterstock.com/

痙攣と言うと、意識がなくなって倒れこみ、全身が震えるような症状をイメージする方が多いかもしれません。しかし、実は痙攣には様々なパターンがあります。

そもそも痙攣とは“筋肉が自分の意識や体のコントロールとは無関係に強く収縮してしまう状態”のこと。このときの筋肉とは、全身のこともあれば体の一部の筋肉だけが痙攣を起こすこともあります。さらには、意識がなくなる発作性の痙攣もあれば、意識はしっかりしている痙攣もあります。

このように、痙攣と言っても実に様々な状態があります。もちろん、意識がなくなるくらいの痙攣であれば、どんな飼い主の方でも異常に気づきますが、例えば太ももの筋肉だけが「ピクッピクッ」と動いている程度の場合、痙攣に気づかないことがあります。

また、動物病院を受診するとき、その痙攣の状況を正確に伝えることはなかなか難しいと思います。可能であれば、痙攣の様子をスマートフォンなどの動画に撮って、動物病院で見てもらうようにしましょう。診断の大きな手がかりになります。

■痙攣の原因も、本当に様々(※1)

慌てず冷静に対処しよう!犬の「痙攣」について獣医師が解説
出典:https://www.shutterstock.com/

このように、同じ痙攣でもその症状は様々なのですが、実はその原因も本当に多様です。“痙攣=神経の病気”と考える方が多いように思いますが、犬の痙攣は神経以外の病気もたくさんあるため注意が必要です。

(1)低血糖が原因

トイプードルやチワワなど小型犬の子犬では、痙攣が見られた時の重要な病気のひとつに“低血糖”があります。小型犬の子犬では、嘔吐や下痢などで栄養不良になると、簡単に低血糖に陥るため注意が必要です。もちろん、低血糖は時間が経つと命を落とす危険が高いため、緊急的に治療する必要があります。

(2)代謝異常が原因

体の代謝を司るホルモンの異常で痙攣が見られることもありますし、肝臓の代謝異常で体にアンモニアが蓄積され、その結果、痙攣が起こってしまう“肝性脳症”という病気、あるいは腎臓の機能が低下し、老廃物が体に蓄積することで発症する“尿毒症”など、代謝異常によって起こる痙攣もあります。

(3)神経自体が原因

神経自体が原因で痙攣が見られることもあります。代表的なものには“てんかん”がありますが、他にもチワワに多い水頭症、あるいは老齢犬では脳腫瘍や脊髄腫瘍など、いわゆる神経系のガン、あるいは脳の血管が詰まってしまう血栓症などが原因の場合もあります。

(4)筋肉の病気が原因

筋肉の病気、あるいは神経と筋肉のつなぎ目に異常が見られる病気にも注意が必要です。また、遺伝的な原因で痙攣が見られる病気もあり、ボーダーコリーの神経セロイドリポフスチン症が有名です。

(5)誤飲が原因

神経を冒すような物質(農薬、重金属、殺虫剤、薬剤、キシリトールやカフェインなど)を誤飲することによる中毒、落下事故など強い衝撃を受けたときに見られる脳震盪なども注意が必要です。

(6)低酸素状態が原因

心臓発作や気管や肺の病気で酸欠になる“低酸素状態”でも痙攣が見られることがあります。

■まず冷静になることが大事

慌てず冷静に対処しよう!犬の「痙攣」について獣医師が解説
出典:https://www.shutterstock.com/

痙攣の症状によっては緊急対応が必要になることもあるため注意が必要です。しかし、目の前の人が慌ててしまうと、適切な処置が難しくなることがほとんどです。犬の痙攣に気付いたときは、慌てず冷静を保つように心がけてください。

その後、速やかに周りの人に声をかけて、なるべく手伝ってもらえる人を集めてください。そして、動物病院に連絡をしたり、動物の呼吸状態を確かめたりしてください。動物の呼吸は、胸の動きをチェックするとよいでしょう。もし人の手が余るようでしたら、痙攣の状態を動画で撮影してください。

あとは電話をした動物病院の指示に従ってください。このとき、例えば犬の口から泡を吹き出しているといって、無理に口に手を向けると噛まれることがあります。飼い主さんがケガをしてしまう危険もあるので注意しましょう。

また、もともと痙攣の持病があり治療薬が手元にある場合は、処方された獣医師の指示に従って投薬してください。

■痙攣の診断は大変!だけど重要

慌てず冷静に対処しよう!犬の「痙攣」について獣医師が解説
出典:https://www.shutterstock.com/

犬の痙攣は、前述の通り実に様々な原因があります。もちろん、痙攣の原因によって治療方法は大きく異なるため、正しい治療をするためには正しい診断が欠かせません。

大抵の場合、まずはその痙攣が“神経病かどうか”の区別が必要になるため、詳しい問診や神経的な検査、さらには神経以外の状況を把握するための、全身的なスクリーニング検査が必要になります。

その後、神経病の疑いがある場合は、脳のどういった部分にどういったことが起こっているのかを調べるため、さらに詳しい検査を行います。このとき、大抵はMRI検査や脳脊髄液検査、さらには遺伝子検査などが必要になります。

これらの検査は実施できる施設が限られているため、場合によっては大学病院などの二次診療施設への転院が必要になることもあります。

痙攣は実に多様な症状、原因があります。中には緊急的な対処が必要になることもあるため、目の前の犬が痙攣を起こしたときは、まず冷静に対処するようにしましょう。

また、痙攣の診断には時間も手間もかかることが多いのですが、より犬への負担を少なく、かつ良好な治療効果を得るために、正確な診断が欠かせません。かかりつけの獣医師とよく相談しながら診療を進めるようにしましょうね。

※ 本サイトにおける獣医師および各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。また、獣医学の進歩により、常に最新の情報とは限りません。個別の症状について診断・治療を求める場合は、獣医師や各専門家より適切な診断と治療を受けてください。

わんにゃ相談

【関連記事】

※ 犬の健康のために知っておきたい!正しい運動量のポイント3つ 

※ これだけは知っておきたい!犬の「免疫」の基本と免疫系の疾患について

全身疾患になることも!犬と猫の歯周病について

獣医師特集

【参考】

※1 J-VET 2018 9月号 「発作を呈する動物に対する緊急治療」

【画像】

※ Anna Hoychuk, Anna Hoychuk, xkunclova, Javier Brosch, len4foto, / Shutterstock

FOLLOW ME

twitter   facebook

この記事に付けられているタグ

いいね 14