【獣医師執筆】精神的にも身体的にもメリットがある？犬とのふれあいによる「健康効果」とは｜記事｜わんにゃ365

※2020年8月21日情報更新

犬が大好きなみなさんに質問です。みなさんは犬と触れ合っているとき、見ているときに、どのように感じていますか？　ほとんどの方は幸せな気持ちになると思います。特に犬を飼っている人にとっては、愛犬と一緒に過ごす毎日は楽しくて幸せですよね。

近年、犬との関わりによる人（特に高齢者）への健康効果について、いろいろなことが分かってきています。今回は、近年報告された論文をもとに、犬とのふれあいによってもたらされる人間への健康効果について解説します。

■循環器疾患に対する効果

精神的にも身体的にもメリットがある？犬とのふれあいによる「健康効果」とは — 出典：https://www.shutterstock.com/

国内の人の死因の第1位はがんですが、次いで循環器疾患が大きな割合を占めています。循環器疾患の代表例には虚血性心疾患や脳血管疾患があり、これらは加齢ともに罹患率が上がります。また高血圧の方は、心筋梗塞などの虚血性心疾患や、脳出血･脳梗塞などの脳血管疾患を発症するリスクが上がるとされています。

犬とのふれあいは循環器疾患にとってよいとされています。ある研究では、犬を飼っている人は、飼っていない人に比べて高血圧の人が少ない傾向にあるとされ、犬を飼うことで循環器疾患の発症リスクを下げるということを示唆しています。

犬と触れ合っているときは、緊張がほぐれ、リラックスでき、それが血圧の低下につながるのでしょう。みなさんが犬と触れ合っているときに感じるほっとした気持ちは、身体にとってもいいことなのです。

■うつ病に対する効果

仕事や人間関係など様々なストレスに曝されながら生きていく現代人にとって、うつ病は大きな問題となっています。ストレスの原因そのものを取り除くことができればよいですが、そう簡単でもありません。また、日常的にストレスを発散するのも大変なことです。

うつ病に対する治療として、アニマルセラピーが有効であると言われています。アニマルセラピーは、正式には動物介在療法と言いますが、動物と触れ合わせることで精神的な健康を取り戻す治療法になります。アニマルセラピーは、ストレスを軽減させ、うつ病患者の症状を和らげるとされています。特に、老人ホームなどの高齢者施設にいる人々にとって効果が高いとも報告されています。

動物を飼うことによってうつ病の症状が大分軽減する例もありますが、一方でうつ病の改善に寄与しなかったという研究もあったりもしますので、アニマルセラピーのメカニズムについては更に研究が望まれている領域です。

また、大切なペットが亡くなってしまったためにペットロスとなり、うつ病になってしまう例もあります。動物を飼うことは精神的に健康になることも多いですが、一方でペットロスという重要な課題があることも事実です。

■高齢者の身体活動に対する効果

高齢者が抱える問題のひとつとして、身体能力の低下が挙げられます。年齢を重ねるにつれ、心肺機能の低下、筋肉の衰え、関節の痛みなどがみられはじめ、運動能力は低下していきます。さらに、それに伴って運動する意欲も下がって運動の頻度も減り、運動能力の低下はより加速してしまいます。この負のサイクルを止めるためには、運動の習慣をつけるしかありません。

高齢者にとって、犬を飼うことのメリットの一つは、散歩の習慣ができることでしょう。実際に、高齢の犬の飼い主さんは、犬を飼っていない人と比較して歩く頻度が多く、身体能力の衰えが少ないとの報告があります。日々の生活活動のレベルもあまり低下しにくいとも言われています。

他にも、犬と高齢者に関する興味深い研究結果があります。老人ホームの住人に、犬と一緒に歩かせた場合と一人で歩かせた場合に、犬と一緒の時の方がより長い距離を歩くといった結果が出ています。おそらく、犬と一緒だと散歩による疲れを感じづらくなり、たくさん運動できるようになるのでしょう。

今回は、犬と関わることによる人間へのポジティブな健康効果について解説しました。犬と触れ合っている感じる安心感や幸福感は、みなさんに精神的な健康をもたらしてくれます。さらに高齢者にとっては、犬との散歩を通じて身体能力の衰退を遅らせることができるかもしれません。

犬と普段から関わる人は、何気なく犬を飼うことのメリットを感じていたかもしれませんが、研究として解明されつつあるのは大変興味深いことですよね。