※2020年6月5日情報更新
獣医師のなかには、わんちゃんにおやつを与えることに否定的な意見の人もいます。それは、肥満、嘔吐・下痢、アレルギー、ドッグフードの拒否、歯科疾患などの、誘発原因になるからです。
しかし、可愛い愛犬におやつを与えたくなる気持ちもわかります。そもそも、companion animalのpanは、ラテン語のパンに由来する言葉、comは一緒にという接頭語。つまり、伴侶動物という言葉には、一緒にパンを(同じものを)食べるという意味があります。食卓に並んだものを、ひとつまみ……筆者も同じです。
さて、そうはいっても、前記のようなおやつによる弊害は、獣医師としては見逃せません。今回の記事では、もしあげるとすればおやつに何を選ぶか、そして、どのようなものは危険かなどについてお話をします。
■おやつの基本知識
(1)おやつの選択、何がよいのか?
一番よいのは、今あげているドッグフードを数個、おやつとしてあげることです。もしくは、気になるドッグフードがあれば、それを小袋で購入し、おやつにすることです。
(2)そもそも、おやつの意味とは?
わんちゃんには、おやつという観念はありません。栄養学的にも、1日2食のドッグフードで十分。しかし、しつけ・日常ケアのサポートにおやつを使うと、非常に有効です。歯磨き訓練、爪切り、耳掃除のご褒美としての価値は高いと言えます。
■おやつとして絶対にあげてはいけないもの
(1)硬いもの
写真は、牛皮・ひづめを与えられていたわんちゃんの割れた歯です。硬いものは絶対にダメ。
(2)人間の食べ物
「1個だけならばいいでしょ?」という飼い主さん、要注意です。たとえ1個でも、体重5kgのわんちゃんにとっての1個は、体重50kgの人間に換算すると10個に相当します。あきらかにカロリーオーバーです。人間の食べ物は、時に、わんちゃんでのカロリー換算を忘れさせてしまいます。
(3)犬にとって大きなもの
本来、野生下では、安全に飲み込めるサイズまで咬みちぎります。そういう意味で、細かく裁断されたドライフードは、嚥下(えんげ)機能の落ちたシニア犬でも安全です。
以前筆者は、10kgのシニア犬がアンパンを丸のみして、一瞬でのどに詰まらせて死亡した症例を見ました。丸のみした歯磨き用のおやつが、消化管に詰まることによる死亡例も、過去には多発しています。
(4)ジャーキーなど肉類系
定番ですが嗜好性が高いため、徐々にドッグフードの方を食べなくなっていくケースが多いです。
(5)骨
骨は本当に危険です。下記のレントゲン写真は、骨(骨付きスペアリブ)が食道に詰まった症例の、バリウム検査のものです。
白いものがバリウムです。通常バリウムは、投与後、直ちに胃まで流れます。
しかし、こちらの写真では、途中でバリウムが止まっています(内視鏡で確認後、治療しました)。
噛み砕けない硬いものは、丸飲みして詰まることがあります。愛犬を可愛がる飼い主さんの気持ちから、徐々に与える量が多く(大きく)なり、そこに動物側の老化や体調不良が重なり飲み込む機能も衰えていると、危険な状況になります。
愛犬のためにと思ってあげたおやつが、時に愛犬を危険にさらすこともある実態を理解してください。
ちなみに、わんちゃんにチョコレートを与えるのが危険だというのは有名な話ですが、英国の2012~2017年の調査で、クリスマスとイースターでは、わんちゃんがチョコレートを食べ、危険な状態になるリスクが上がるそうです(※)。動物福祉先進国も一緒ですね。
※ 本サイトにおける獣医師および各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。また、獣医学の進歩により、常に最新の情報とは限りません。個別の症状について診断・治療を求める場合は、獣医師や各専門家より適切な診断と治療を受けてください。
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【参考】
※ Peter-John M Noble et al. (2017). Heightened risk of canine chocolateexposure at Christmas and Easter. Veterinary Record, 181(25) 684, PubMed PMC5749306.
【画像】
※ 北森ペット病院
※ gumichan, alligatorfarm / PIXTA(ピクスタ)
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