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【獣医師執筆】犬のがんと人のがんの違いを押さえよう!犬の「がん」に対して飼い主ができること~第一弾~

吉本翔

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【獣医師執筆】犬のがんと人のがんの違いを押さえよう!犬の「がん」に対して飼い主ができること~第一弾~

2021330日情報更新

いつまでも大切な愛犬と楽しく生活したいですよね。そのために食事や運動など、様々なことに気をつけている飼い主さんも多いかと思います。

しかし、いつかは愛犬も病気になり、今の生活を続けられなくなる……そんな状況を今のうちから考え、知識をつけておく、気持ちを整理しておくことも大切ですよね。

そこで今回は犬の“がん”について、基本知識と飼い主として愛犬のためにできることを、獣医師の吉本翔先生に解説いただきました!

■はじめに

予防よりも早期発見が大切!犬の「がん」に対して飼い主ができること
出典:https://pixta.jp/

国内における人の死因の第1位ががんであることはみなさんご存知かと思います。しかし、犬の死因の第1位もがんであることを知っていますか?(※1)

人医療の発展に追随するように、獣医療も着実に発展しています。多くの病気に対する有効な治療法が開発されてゆく中、未だにがんに対しては、人医療も獣医療も全然克服できていない状況です。

この恐ろしいがんに対して、飼い主さんは何ができるのでしょうか。がんに太刀打ちするためには、獣医師と同等かそれ以上に飼い主さんの役割が大きいといっても過言ではありません。

今回は、飼い主さんにがんの知識をつけて頂くために、がんの定義や、犬のがんの特徴、臨床徴候など、犬のがんに関する基本的な事項について解説します。

■犬のがんの定義

予防よりも早期発見が大切!犬の「がん」に対して飼い主ができること
出典:https://pixta.jp/

がんは、“遺伝子変異により細胞が無秩序に増殖し、周囲の組織への浸潤や他の部位へ転移を起こす細胞集団(腫瘍)”のことを言います(※2)。悪性腫瘍とも呼びます(良性腫瘍は、がんとは呼びません)。

噛み砕いて説明すると、がんは、身体のどこかの細胞が異常に増殖し始め、増殖したがん細胞により正常な臓器が侵される病気です。がん細胞は、発生した部位の近くだけではなく、血液やリンパ液の流れによって、全身に移行(転移)することもあります。

■犬のがんと人のがんの違い

予防よりも早期発見が大切!犬の「がん」に対して飼い主ができること
出典:https://pixta.jp/

「犬にもがんがあるの?」という言葉を、しばしば耳にすることがあります。ちなみに、象やハダカデバネズミなどは、がんになりにくい動物であると言われています(※1)。

犬のがんは、人のがんと類似していることが多いと言えます。実際に、犬のがんの診断法や治療法は、筆者の理解では人医療で使われてきたものを応用している事例がほとんどです。しかし、臨床獣医学的な観点から、飼い主さんが押さえておきたい点が2つあります。

(1)がんが進行してから見つかるケース

1つ目は、がんが進行してから見つかるケースが多いということです。その理由としては、人のがん検診のようにがんを早期発見する検診システムが整っていないことや、犬はがんで体調が悪くても初期では表に出さないため、飼い主さんが気付きにくいということが挙げられます。

(2)生存期間が短い

2つ目は、生存期間が短いということです。これは、犬のがんが進行例で見つかることが多いことや、そもそもの寿命が人よりも短いためです。人では1年生存率や5年生存率という言葉をよく使いますが、犬で5年生存率という言葉は用いることはほとんどありません。

犬では、1か月生存率、3カ月生存率、1年生存率という言葉が一般的に使われるかと思います。なぜなら、寿命の関係で犬はがんが見つかってから、数年間生きるケースがあまり多くないからです。

■犬のがんの種類

予防よりも早期発見が大切!犬の「がん」に対して飼い主ができること
出典:https://pixta.jp/

実は、がんと言ってもその種類はたくさんあります。口腔内のがん、肝臓のがん、膀胱のがんなど発生する部位も様々ですし、がん細胞の由来となる元々の細胞によって悪性度は異なります。

1か月生きることすら厳しいものもありますし、逆に治療によって1年以上生きられる可能性が高いものもあります。がんの種類によって、臨床的な挙動は千差万別であることを覚えておきましょう。

■犬のがんの徴候

予防よりも早期発見が大切!犬の「がん」に対して飼い主ができること
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犬のがんの徴候ですが、がんの種類や発生部位によって様々です。そのため、「この徴候があるからがんだ!」「がんがあったらこの徴候が出る!」ということは一概に難しいと言えます。

脳にがんが発生すれば発作が出る、膀胱にがんがすればおしっこが出づらくなるといった徴候が見られますが、これらの徴候は、脳炎や膀胱炎などがん以外の病気でも見られるものです(※4)。

また、がんがあってもかなり大きくなるまでは、徴候がほとんど見られないこともあります。

基本的に、がんの発生頻度が高くなる中高齢の犬に対しては、どのような徴候がみられたとしても、「もしかしたらがんの可能性がある」ということを常に頭に入れておく必要があります。

がんの種類によって徴候は異なりますが、基本的にがんはどんどん大きくなっていくので、徴候は時間経過とともに悪化する傾向にあります。

今回は、飼い主の皆さんが、がんに関する知識を身に着けて頂くために、がんの基本的な事項について解説しました。犬のがんは、どうしても発見が遅れてしまうことが多々あります。

今回、ご紹介した内容をしっかりと押さえて、がんに対して事前に備えておくことが大切です。次回は、犬のがんの診断法や治療法、飼い主が愛犬のためにできることについてご紹介する予定です。

※ 本サイトにおける獣医師および各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。また、獣医学の進歩により、常に最新の情報とは限りません。個別の症状について診断・治療を求める場合は、獣医師や各専門家より適切な診断と治療を受けてください。

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【参考】

※1 Inoue M, et al. (2015). A current life table and causes of death for insured dogs in Japan. PubMed.

※2 知っておきたいがんの基礎知識 :[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]

※3 Seluanov A, et al. (2015). Mechanisms of cancer resistance in long-lived mammals. HHS Public Access.

※4 Stephen Withrow, et al. (2012). Withrow and Mac Ewen’s, Small animal clinical oncology 5th edition. Saunders.

【画像】

※ よっし, Flatpit, Fast&Slow, Kazuhiro Konta / PIXTA(ピクスタ)

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