人と同じように、ペットも季節の変わり目や春先になると体調を崩すケースがあるそう。特に犬の場合は“胃腸炎”に注意が必要です。そこで今回は、犬の胃腸炎について獣医師の西原克明先生に解説いただきました!
■犬の胃腸炎の症状は嘔吐と下痢
犬の消化器に関する病気は、動物病院に来院する理由トップ3のうち一角を占めるほど、よく見られる症状です(※)。ちなみに、残り2つは皮膚の病気と耳に関連する病気です。筆者の経験では消化器に関する病気の中で、特に胃腸炎が多い印象を受けています。
胃腸炎の症状である嘔吐や下痢は、胃腸炎以外の病気、例えば腎臓病や肝臓病でもよく見られる症状のため注意が必要です。また、中には胃捻転のように、一刻を争うような命の危険のある病気もあるので、「うちの子は時々吐くことがあるから……」と様子を見るのではなく、できるだけ細かく犬の状態をチェックするようにしてください。
嘔吐と下痢については軽い症状も多く、またいくつか紛らわしい症状もあるため、様子を見るのか動物病院に行った方がよいのか判断に迷うことがあります。
もっとも確実なのは、嘔吐であれば動画撮影(スマートフォンでも十分です)、下痢なら便の写真および動物病院への持参が有効です。しかし、嘔吐のタイミングよく動画撮影は難しいですし、下痢の取り扱いには衛生面での注意が必要です。そのため、胃腸炎の症状でその対応の判断が難しいときは、かかりつけの動物病院に電話で確認するようにしてください。
■嘔吐と間違えやすい症状とは
嘔吐は食べたものや胃液などが胃から逆流して吐き出してしまう症状ですが、中には、犬の咳や吐出を嘔吐と間違えてしまう場合もあるため注意が必要です。
犬の咳は、人間でいうと「喉に溜まった痰を吐き出す」ような仕草のため、一見すると嘔吐しているように思うことがあります。しかし、嘔吐の場合は、お腹から吐き出す動きが見えるのに対して、咳はお腹の動きがあまり見られないので、そういったお腹の動きで区別することが多いのではないでしょうか。
また、口から出てくる内容物で区別しようとする方がいますが、犬の胃捻転では口から何も出てこない嘔吐が見られることがあります。そのため、口からの内容物での判断はあまりおすすめしません。
さらに、咳と同じように嘔吐と区別が難しいのが“吐出”という症状です。吐出は胃からの吐き出しではなく、胃の手前、つまり食道からの吐き出しによる症状です。この吐出も、咳と同じように、お腹の動きがほとんどない状態で吐き出します。ただし、咳と違ってほとんどが食道の内容物を吐き出します。
このように、嘔吐と似たような症状に咳や吐出があります。これらは、原因がまったく異なるのと、もちろん治療方法も異なります。最初の症状を適切に動物病院に伝えられない場合、誤診につながる可能性もあるので、できるだけ細かく状況を把握していくことが重要です。
■様子を見る?それとも病院に行く?
嘔吐が一度だけで、そのあと元気な場合は、半日ほど絶食をして様子を見ることも選択肢かもしれません。ただし、様子を見ている間に嘔吐を繰り返す、あるいは元気がなくなる、下痢など他の症状が見られた場合は、なるべく早く受診するようにしてください。
また、嘔吐でも「ときどき吐くことがあるけど、いつも吐いたあとは元気だから様子を見よう」「犬はときどき吐くものだから、気にしなくていい」という意見もありますが、筆者はこのような慢性的な症状が見られる場合、将来的に体への負担が大きくなる可能性があるので、動物病院に相談した上で、なるべく食事内容の変更など対策をとることをおすすめしています。
また、前述した胃捻転という病気は、嘔吐症状を示す病気の中でも一刻を争う緊急対処が必要な病気です。胃捻転のほとんどは、嘔吐とともに元気がなくなる(中にはショック症状を起こすケースも)、吐く仕草をしているのに吐けない、といった症状が見られます。少しでも胃捻転を疑う症状が現れた場合は、緊急的に動物病院にかかるようにしてください。
■軟便でも要注意!便の異常が続くときは対策が必要
一方、胃腸炎のもう一つの症状である下痢ですが、実は下痢にも様々な種類があります。大まかに水のような下痢や、何回もしぶるように下痢をする場合は、筆者は“大腸性の下痢”を疑うことが多いです。
また、回数は少ないけれど、一度に大量の下痢便が出るときには“小腸性の下痢”を疑います。さらには、胃や十二指腸に出血が見られる場合には、黒色の便が出るようになります。
その他、病気ではありませんが、異物を誤飲してしまったとき、胃や腸で異物が詰まって、いわゆる腸管閉塞を起こした場合には、嘔吐とともに少量の下痢が見られることがあります。
一般的には、犬が若齢で普段から下痢することもなく、一度だけの下痢でその後も元気であれば、少しの間絶食をして様子を見るという考え方もあるでしょう。しかし、下痢を繰り返す場合、あるいは小腸性の下痢や黒色便、少量頻回の下痢が見られた場合は、治療が必要な病気が隠れている可能性が高いので、動物病院を受診するようにしてください。
また、形はあるけど少し柔らかい便、いわゆる軟便についてですが、軟便も獣医療では下痢に分類されます。ほとんどの軟便は、それ以外に症状がなく、犬も元気なため、様子を見がちになりますが、軟便が続く、あるいはときどき軟便をする場合も病気が隠れていることがあるので、なるべくかかりつけの動物病院に相談するようにしてください。
■定期的な健康チェックを心がけよう!
若齢で元気、普段から嘔吐や下痢をすることもない犬の場合、一度だけの胃腸炎症状の場合は、半日ほどの絶食で様子を見てもよいでしょう。その後、体調崩すことなく元気な場合は少しずつ食事を再開しますが、その際は十分にふやかし、少量から与えるようにしてください。
犬の胃腸炎ではどんな原因であれ、消化器がダメージを受けている状態です。したがって、口に入れるものもなるべく胃腸に負担をかけないように、消化のよいものを少しずつ与える必要があります。
ドライフードはふやかすと消化がよくなるので、胃腸炎のときは必ずふやかすようにしてください。一方、ウェットフードや手作り食の方が消化性はよいのですが、普段、そういったフードを食べ慣れていない犬の場合、さらに症状を悪化させる場合があるので注意が必要です。もちろん、普段からそういった食事を取り入れている場合は問題ありません。
また、動物病院の療法食には特に消化性に配慮されたものもあるので、利用するのもよいでしょう。ただし、これらの食事でも症状が改善されない場合は、速やかに動物病院を受診するようにしてください。
また、高齢犬の場合や普段からときどき胃腸炎が見られる犬の場合も注意が必要です。中には慢性の病気の初期症状の可能性があり、様子を見すぎると病気が進行してしまう可能性があるからです。
高齢犬やお腹が弱い犬は普段から定期的な健康診断を受けて、そのような隠れた病気を早期発見できるように努めてあげてください。
犬の胃腸炎はよく見る病気です。若くて普段から胃腸症状のない犬で、一度だけの症状であれば様子を見てもよいかもしれませんが、それ以外では、厄介な病気が隠れている可能性もあるため、こまめに動物病院にかかるようにしましょう。
また、そういった病気を見逃さないためにも、普段からの定期的な健康診断をおすすめします。胃腸炎の症状で様子を見るときは、普段食べているドライフードをふやかして少量与えるなど、お腹に負担をかけない食事を心がけてください。もちろん、それで改善しない場合は、なるべく早く動物病院を受診するようにしてくださいね。
※ 本サイトにおける獣医師および各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。また、獣医学の進歩により、常に最新の情報とは限りません。個別の症状について診断・治療を求める場合は、獣医師や各専門家より適切な診断と治療を受けてください。
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※ Best dog photo, Beatriz Vera, Juri Bondar, Beatriz Vera, WildStrawberry, Oyls, Megan Betteridge / Shutterstock
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