保護動物たちを救うために、日本でも海外でも多くの方々が日々一生懸命活動しています。日本と海外では文化や法律、価値観も違うため、動物福祉の活動も日本と同じものから日本では行われていないものもあり、よいことでもそのまま取り入れるには難しいものもあります。実際に海外の保護施設の事を知り、その中からよいものをアレンジして日本で取り入れていけないか考えてみることは、日本の動物たちを救うヒントになるのではないでしょうか。
今回、カナダの首都・オタワの動物保護施設へ伺いました。カナダの地域によっては、ペットショップで犬猫の販売が規制されており、特に犬に関しては、ブリーダーさんから購入したり、保護犬を迎えたりということが一般的なお迎え方法なのだそう。
お話を伺ったのは『Lanark animal welfare society(ラナーク動物福祉協会)』(以下、Lanark)という、オタワ郊外にある1986年に創設された動物保護団体のシェルター。道路を挟んでお向かいには馬が草を食んでいるような、のびのびとした牧草地に建っている施設です。
こちらの団体のリーダーであるKathyさんに、シェルターの仕組みや犬猫への想いなどを伺いました。
■最先端の「シェルターメディスン」を導入
こちらの施設では、「シェルターメディスン」というシェルター(動物保護施設)特有の獣医療を取り入れています。シェルターでは、動物たちが集団で生活する必要がありますが、集団の中で各自の健康を配慮した獣医療をシェルターメディスンと言います。
たとえば、こちらのお部屋は5匹のねこちゃんが生活しています。シェルターメディスンでは、集団で保護する場合の最低の広さが決められており、約5.5メートル四方のお部屋の広さなら最大で5匹までならストレスが少なく過ごせると言われています。壁に貼ってあるのは、各ねこちゃんの健康や生活において気を付けることについて。スタッフ全員が分かるようにするためです。
お部屋の中には、ねこちゃん達が遊べるようにおもちゃやタワーが設置してあります。ねこちゃんの相性、年齢などを考えて部屋割りを決めているそうです。
集団部屋だけでなく、個室もあります。こちらでは、病気などで特別な処置が必要なねこちゃんが過ごしています。
建物内の奥の方で、静かな環境を保つようにしているケージもあります。こちらは、母猫や子猫がいることが多いそうです。
Lanarkでは、個々のねこちゃんの健康状態に配慮した部屋割りやスタッフ間の情報共有といった可能な範囲でシェルターメディスンを取り入れています。別のシェルターによっては、引き取りから新しい飼い主への譲渡した頭数、どんな要因で病気になったのかなどのデータを分析し獣医学的な知見に基づいた運営をしていることもあるようです(※)。「群の健康を維持し、心身ともに健康な動物を1頭でも多く適材適所に譲渡すること」こそが、シェルターメディスンの目的です。
■シェルターの活動実績と取り組み
カナダでは保護犬より保護猫の数が大きく上回っており、問題になっているそう。Kathyさんいわく、わんちゃんの飼い主さんは責任意識が向上してきていて、保護されるわんちゃんも少ないとのことです。ねこちゃんに関しては、自然がいっぱいのカナダでは、農場で生活する野良が多く、人の手の届かないところで繁殖してしまうことが多いそうで、まだまだコントロールが難しい状況とのことでした。
こちらのシェルターでは、わんちゃんの受け入れは現在行っていません。その理由としては、わんちゃんの生活の質を保った保護活動が施設の構造上、労働力の面から不可能だからとのことです。
しかし、わんちゃんの保護活動の橋渡しを行っています。フォスターファミリーという一時預かりのご家族が約20組、こちらの施設と連携を取り、一時的にわんちゃんを預かってくれます。妊娠中のねこちゃんや、生まれたての子ねこちゃんやその親猫も、フォスターファミリーが預かることが多いそうです。
Lanarkでは、2018年、ねこちゃんを559匹を預かり、549匹が譲渡されました。わんちゃんはフォスターファミリーの元で新たに9匹を預かり、もともといた子も含め16匹が譲渡されました。この施設は決して大きくはないのですが、ホームページやFacebookなどSNSを利用した呼びかけが実を結び、年間ではかなりの数のわんちゃん・ねこちゃんの新しい家族を見つけています。
多くのねこちゃんが新しい家族を見つけていますが、中には人に怯えてしまうとても怖がりな子もいます。人に慣れるよう、ねこちゃんのそばに人が座るトレーニングを行い改善していきます。それでも人との生活が難しいねこちゃんは、"Working Cat”としてネズミの問題が多いカナダでは農場や倉庫へ譲渡されていくそうです。その場合は、一般家庭にいくねこちゃんより譲渡料を低く設定しています。
他にも、Lanarkでは福祉施設への訪問や子ども達の教育等の活動、避妊去勢手術をする費用を払うのが難しい飼い主さんへの費用の援助等、さまざま面から動物福祉の活動を行っています。
■シェルターの活動資金は?
資金面は、基本的には寄付でまかなっているそうですが、イベントを行ったり、ボランティアさんの手作りクッキーの販売、施設内の庭でバザー等を行ったりすることもあるそうです。
また、寄付も個人、企業など色々な所に協力を要請して資金集めを行っているそうです。近所に住む小さいお子さんが、自分の誕生日プレゼントをもらう代わりに、その分のお金の寄付をご両親にお願いしてくれたという出来事もあったそう。
■どんな方が働いているの?
6名のスタッフさんとボランティアさんが交代で勤務されており、1日にスタッフさんは2名、ボランティアさんが2~3名働いています。
ボランティアさんは、長期だと20~25名いらっしゃるのですが、まだまだ足りていないとのことでした。また、短期的なボランティアの受け入れも行っており、庭の清掃など、人手が特に必要な時は企業からまとめて25名ほどが一時的にボランティアに来てくれたりということもあるとのことです。
スタッフの方もボランティアの方も、皆さんねこちゃんに話しかけている姿が印象的でした。英語で話されていても、ねこ語になってしまっているのが微笑ましかったです。
■シェルターがない世界を目指して
Lanarkではこのような施設が必要でない世界を目指しています。次の目的として、ねこちゃんの施設に外の風を感じられるバルコニーを増設したいと考えているそうです。
Kathyさんは「規模も小さく、経済面、労働力面でも大変なことが多いけれど、色々と工夫して保護犬、保護猫の生活の質を保つことを第一に考え、これからもわんちゃん・ねこちゃんの未来のために頑張っていきたい」と仰っていました。
「シェルターメディスン」を取り入れ、個々のねこちゃんを尊重した環境作りをされているのが印象的でした。わんちゃん・ねこちゃんを愛する気持ちは万国共通。この記事から、皆さんがさらに動物の幸せを考えるきっかけになると幸いです。
<取材協力>
Lanark Animal Welfare Society
HP:https://www.lanarkanimals.ca/
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【参考】
※ 保護施設専門の獣医学、シェルター・メディスンとは?|docdog(ドックドッグ)
【画像】
※ vvvita,Vasek Rak / Shutterstock
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