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【獣医師執筆】愛犬とのスキンシップで手足切断に!? ペットとのスキンシップで気を付けるべきこと

吉本翔

獣医師
吉本翔

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【獣医師執筆】愛犬とのスキンシップで手足切断に!? ペットとのスキンシップで気を付けるべきこと

愛犬から猛烈にキスされたり舐められたりすると、愛犬からの愛を感じますよね。飼い主さんの中には、自分から愛犬とキスをする方もいるかと思います。しかし、稀に愛犬とのスキンシップにより、飼い主に重大な病気を引き起こす可能性があります。

今回は、アメリカでの事例をもとに、愛犬とのスキンシップの危険性についてご紹介します。本事例では、ある飼い主さんが愛犬との接触により細菌に感染し、重篤な状態となった末、手足を失いました。非常に稀なケースではありますが、国内でも死亡例が報告されている病気ですので、飼い主の皆さんに是非一読していただきたい内容です。

■犬とのスキンシップで大手術…アメリカの事例

愛犬とのスキンシップで手足切断に!? ペットとのスキンシップで気を付けるべきこと
出典:https://www.shutterstock.com/

アメリカ・オハイオ州に住むとある女性は、休暇中の旅行から帰宅しました。彼女の愛犬2頭は彼女の帰宅に大変喜び、彼女をたくさん舐めました。この犬たちは普段から、女性のことをたくさん舐めていたそうです。旅行から帰った次の日の夜、女性は鼻水が出て、全身がだるく痛み、風邪のような症状を示していました。彼女は発熱もしておりましたが、突然体温が低下し始め、女性の旦那さんはその時点で救急病院へと駆け込みました。

救急病院の医者は、彼女は「敗血症」と言われるとても重篤な状態にあると診断しました。彼女の体内では血栓ができ、その血栓が血流を遮断し、彼女の手足は腐敗し始めたのです。医者は、この壊疽した手足を取り除かなければ、彼女の命は助からないと判断しました。彼女は、10日間寝たままの状態で、その間8回もの大手術により、彼女の壊疽した手足は手術により取り除かれ、彼女は一命をとりとめました。

大手術を終え、深い眠りから覚めた彼女は、自分の手足を失っていることを全く理解できませんでした。彼女によると、最後の記憶は、体調が優れず家のソファで横になっていたときのもの。彼女は、手足を失ったという悲劇に涙を浮かべながらも状況を受け止めており、旦那さんは、「今でも私たちは自分たちの犬を愛している」と述べました。

 

■手足切断の原因となった菌?カプノサイトファーガについて

愛犬とのスキンシップで手足切断に!? ペットとのスキンシップで気を付けるべきこと
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女性を診察したお医者さんは、この一連の出来事の発端は、犬が彼女の腕を引っ掻いた際、その小さな傷から犬の唾液中に含まれるカプノサイトファーガと呼ばれる細菌が感染したのではないかと疑っています。カプノサイトファーガと呼ばれる菌は、いくつか種類がありますが、いずれも68割以上の犬猫の口の中に存在する常在菌とされます。このカプノサイトファーガは、飼っている犬猫から咬まれたり、引っ掻かれたりすることで感染すると言われています。しかし、咬傷の発生数に対して、本菌による患者の報告数が圧倒的に少ないことから、感染したとしてもほとんど発症することはないと考えられています。

 

■カプノサイトファーガ感染症の発生報告数について

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アメリカでは、上述の事例以外にも過去にペットの飼い主さんの死亡例や手足を失った例が報告されています。日本においても、本感染症の報告はされており、1993年から2017年末までに計93例、うち死亡例が19例確認されています。感染例の多くは、飼い犬や飼い猫からの咬傷や掻傷が原因となっています。また、95%以上の患者さんは、40歳以上と中高齢であると報告されています。糖尿病、自己免疫疾患、がんなどの基礎疾患を持つ方の報告が約半数であり、健康な人でも感染・発症の報告があるとされます。

 

■カプノサイトファーガ感染症による被害を減らすために

愛犬とのスキンシップで手足切断に!? ペットとのスキンシップで気を付けるべきこと
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犬猫の飼育頭数や咬傷・掻傷の発生率を考えると、およそ25年に93例の報告ですので、本感染症の発生は非常に稀です。ですので、特に何も意識せずに犬猫と接触していたとしても、この感染症にかかる可能性はとても低いでしょう。しかし、健康な人での発生例も報告されていることを考えると、万が一のことを考えてリスクのある行動は避けた方が良いでしょう。

やはり創傷からの感染が多いことから、犬猫に咬まれたり引っ掻かれたりした後には、すぐに洗浄・消毒をする習慣をつけましょう。また、手足に傷口がある場合には、傷口を舐めさせる行為も危険です。

もしも犬猫に咬まれたり引っ掻かれたりした後に、体調を崩した場合には、病院に早めに行くことも大事だと言えます。できるだけ早期に適切な治療を施すことで、重篤な症状に陥る事態を避けることができます。

 

■スキンシップを無理に減らす必要はないけれど

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本事例が報告されたからといって、飼い犬や飼い猫とのスキンシップを極端に減らさなければいけないわけではありません。しかし、犬猫との接触を介して感染する病気があることは知っておく必要があります。今回ご紹介したカプノサイトファーガ感染症以外にも、犬猫から感染する病気は他にもあります。

飼い犬や飼い猫との触れ合いはとても大切ですが、咬まれたり引っ掻かれたりしないようにすること、傷ついた場合には消毒をしっかりすること、キスなど粘膜を接触させる行為は極力避けること、傷ついた部位を舐めさせないことなど、リスクがある行為は極力避けるようにしましょう。

 

今回は、アメリカで起こった悲しい事例をもとに、ペットとのスキンシップについてお話しました。極端に怖がることはありませんが、犬猫との接触を介して感染する病気があることは頭の片隅に入れておくとよいでしょう。また、スキンシップにおける最低限のルールを守って、ご紹介したような悲劇が起こらないようにしましょうね。

 

※ 本サイトにおける獣医師および各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。また、獣医学の進歩により、常に最新の情報とは限りません。個別の症状について診断・治療を求める場合は、獣医師や各専門家より適切な診断と治療を受けてください。

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【参考】

※1 Dog saliva infection leaves Ohio woman without arms, legs - NEW YORK POST

※2 カプノサイトファーガ感染症に関するQ&A|厚生労働省

【画像】

※ Lopolo,ravipat,NickBerryPhotography,LightField Studios,rnbacardi,photo-oxser / Shutterstock

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