わんにゃとの暮らし

愛犬が「お母さん」になるには?行動の変化や適切なケアについて

菊池亜都子

獣医師
菊池亜都子

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愛犬が「お母さん」になるには?行動の変化や適切なケアについて

飼い主さんであれば、愛しいわんちゃんの二世を見てみたいと誰もが思うことでしょう。しかし、実際に出産させるとなると、そう簡単にはいきません。

わんちゃんの出産は安産というイメージを抱く方も多いようですが、決してそんなことはありません。わんちゃんがお母さんになった時のことをきちんと理解して、適切なケアができるようにしておきましょう。

■妊娠から出産まで

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出典:https://pixta.jp/

わんちゃんの妊娠期間は、受胎(精子と卵子が出会って受精が起こり、妊娠が成立すること)から、平均63日とされています。もちろん個体差があるので、数日前後することがあります。

また、必ずしも交配した日に受胎するとは限らず、交配日から数日遅れて受胎することもあります。妊娠日数によって触診や超音波、X線など診断方法も異なるので、必ず動物病院で妊娠したかどうかを診断してもらいましょう。

産まれてくる子犬のためにも、妊娠中のお母さんを取り巻く環境はとても大切です。この時期に栄養が足りなかったり、ストレスにさらされたりすると、産まれてくる子の行動や生理機能に影響を与える可能性があることが報告されています。

したがって、動物病院の先生と相談しながら、バランスの取れた十分な栄養を与え、ストレスのない環境で出産を迎えられるようにしてあげましょう。

そして、出産に向けてさまざまな準備が必要になるので、やはり動物病院の先生に指導してもらいながら進めていくのがよいでしょう。

 

■出産後のお母さんや子犬のケアについて

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出産後のお母さん、産まれてくる子犬ともに、体調管理には十分気をつけましょう。栄養不足、水分不足にならないようにし、体温が下がらないよう室温の管理も徹底して行うことが必要です。

産まれたばかりの子犬は可愛いので、ついつい触ったり抱っこしたくなりますが、お母さんになったわんちゃんは、わが子に危険が及ぶと感じたら、躊躇なく自分の身を危険にさらして守ろうとします。それは、相手が大好きな飼い主さんであってもみられることがあります。

傾向はわんちゃんによって異なりますので、わんちゃんの様子をよく観察し、攻撃的な態度を見せるようであれば、健康面に注意しながら、できるだけそっと見守ってあげてください。

子犬を取り巻く環境は、成長後の不安傾向や攻撃性などに非常に大きな影響を与えると言われています。特に、産まれてからの約2~3週間にお母さんから受けるグルーミングなどの世話の質や量の違いによって、子犬の心理的発達に大きな差が生じる可能性があることが指摘されています。

つまり、お母さんから十分な世話を受けなかった子犬は、たっぷりと世話を受けた子犬と比べて、成長後も異常に怖がりになったり、攻撃的になったりする可能性が高いと言われています。

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子犬の生後3~12週齢くらいは社会化期とよばれ、ともに暮らす仲間の動物たち(人も含まれる)との適切な社会行動を学ぶ大切な時期になります。わんちゃんの場合、社会化期の前半(生後8~9週齢まで)は、お母さんや同腹の兄弟わんちゃんと一緒に過ごすことで、わんちゃん同士の適切なコミュニケーション方法を学ぶといわれています。

このような経験をさせず、早くにお母さんや兄弟わんちゃんから引き離してしまうと、将来他のわんちゃんを怖がったり、仲良くなれなくなる可能性が高くなります。そのためこの時期までは、お母さんや兄弟わんちゃんとできるだけ一緒に過ごすことが大切になります。

そして、社会化期の後半(8~9週齢以降)では、将来にわたって暮らしていく人間社会に慣れていくことが必要になります。将来、友好的なわんちゃんにするために、初めて会う人やわんちゃんと楽しい体験をできるだけたくさんさせてあげましょう。

 

■最後に…

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わんちゃんが出産するという過程には、様々なリスクを伴います。場合によっては、母子の生命を脅かす危険性もあります。お母さんや子どもの身体の健康についてはもちろんのこと、精神の健康についても細心の注意を払いましょう。

そして、産まれた子犬の生涯の幸せも考えなければなりません。子犬をすべて引き取ることができない場合には、その子に合った里親さんを、責任を持って探すことも必要になります。

くれぐれも安易な気持ちで出産させることのないよう、信頼できる専門家や動物病院の先生に相談した上で、真剣に考えてくださいね。

 

※ 本サイトにおける獣医師および各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。また、獣医学の進歩により、常に最新の情報とは限りません。個別の症状について診断・治療を求める場合は、獣医師や各専門家より適切な診断と治療を受けてください。

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【参考】

※ 中尾敏彦・津曲茂久・片桐成二編(2012)『獣医繁殖学 第4版』文永堂出版

※ 森裕司・武内ゆかり・内田佳子(2012)『動物行動学』インターズー

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※ thisislove, Flatpit, tashirocs, vvvita, Dasha Petrenko / PIXTA(ピクスタ)

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