初めて犬を飼うと、くしゃみやあくびといった、人間と同じ行動をする彼らに、とても親近感がわくものです。犬のくしゃみは人間のくしゃみと同じで、鼻の穴に入った様々な異物を外に出そうとする自然の反応です。
1日に数回ならば問題はありません。しかし、くしゃみを伴う病気は実はたくさんあり、くしゃみが何日も続く場合は、病気が隠れている可能性があります。
※ 記事には患部の写真を含むため
■自然におこるくしゃみについて
ほこりや異物が鼻に入ると、鼻の粘膜が刺激され、神経の反射を介してくしゃみが出ます。このくしゃみは、異物を鼻の外に出すための自然の反応です。また、急激な温度変化もくしゃみを誘発します。その他、人間や猫では、光刺激によるくしゃみがあります。これは遺伝的なものらしく、日本人の25%に出現するという報告もあります(※1・2)。実は筆者もです。
■原因はひとつじゃない!? 疑うべき病気とは
次に、病気のくしゃみについて述べます。病気のくしゃみは、多くは鼻汁が続く慢性鼻炎を伴い、一過性ではなく何日も続きます(場合によっては何か月も)。くしゃみという現象に関しては、どの病気も同じですが、鼻汁の状態(水様性、膿性、血性)、咳、全身状況などから各病気を総合的に診断していきます。
以下、なかなか収まらないくしゃみのときに考慮すべき病気について説明します。
(1)腫瘍
鼻の中にも癌ができます。鼻血や、時間が経過すると顔の変形などが出てきます。くしゃみを伴う病気で、最も怖い病気の一つです。残念ながら、臨床現場では比較的多く認められます。
(2)口腔鼻腔瘻・根尖膿瘍
主に上顎の犬歯の歯周炎が原因でおこります。歯の炎症が波及して、歯を支える骨が溶け(根尖膿瘍)、口と鼻が穴でつながった状態(口腔鼻腔瘻)になると、刺激でくしゃみが出ます。
歯石の付着がひどい場合は、特に注意が必要。口臭を伴うことが多いです。予防は歯磨きです。
(3)ケンネルコフ(伝染性気管気管支炎)
子犬に頻発する、ブリーダーやショップで発生する、咳を主体とした集団的な感染症です。細菌やウイルス、または両方が原因と言えます。
犬を購入後、咳やくしゃみが認められた場合は、直ちに病院を受診してください。処置が早ければ軽症で済みますが、希に肺炎になることがあります。
(4)ジステンパー(ジステンパーウイルス感染症)
致死率の高い感染症です。膿性の目やに、鼻汁を伴います。肉球が硬くなるのも特徴。皮膚炎も併発することもあります。
こちらはワクチンで予防可能です。
(5)異物生鼻炎(鼻腔内異物)
意外と多いのがこのくしゃみです。草などの植物の種などが鼻に入って生じます。口から鼻に入ることもあります。鼻汁が片側からの場合は、この疾患を疑います。
(6)アレルギー性鼻炎
人間ではスギ花粉による辛い鼻炎が有名ですが、犬の鼻炎が主体のアレルギー性疾患は希です。犬のアレルギー症状は、皮膚炎として出るのが一般的です。国内の報告では、アトピー性皮膚炎の犬の約10%が、くしゃみを伴うと報告されています(※3・4)。一般的に水溶性の鼻汁を伴います。
(7)リンパ球形質細胞鼻炎(イヌ慢性炎症性鼻炎)
ミニチュア・ダックスフンドに多い、原因不明の慢性の鼻炎です。ステロイド剤が非常に効果的と言えます(※5)。
(8)真菌感染症
アスペルギルス属による慢性鼻炎です。日本では稀と言われています。膿性の鼻汁、鼻血、痛み、鼻鏡の色素脱落などを伴います。
(9)寄生虫感染症(ハイダニ感染症)
筆者も診たことがない病気です。鼻に住み着く小さなダニが原因で、くしゃみや鼻汁がでます。下記の参考文献に、写真があります(※6・7)。
(10)口蓋裂
口蓋(口の中の上顎部分)の奇形で、口と鼻が通じた状態です。ミルクが鼻から出るなどの症状で気がつく場合が多いです。子犬での発見がほとんどです。
左の写真は発症時、右は術後の写真になります。
以上がくしゃみを伴う病気です。さて、実際これらの病気がどの程度発生しているのでしょうか? 国内には報告はありませんが、あくまで慢性鼻炎という病気で調べると、カナダの研究で、癌46.7%、リンパ球形質細胞鼻炎20%、真菌10.7%、異物5.3%、細菌6.7%、その他という報告がありました(※8)。みなさん、なかなか治まらないくしゃみには注意しましょうね。
ところで、犬は鼻くそがないことを知ってますか? 鼻くそは鼻から入ったゴミが鼻毛にくっつき、それを粘液が吸い取り固まることでできます。犬は鼻に毛がないので、ゴミはそのまま鼻の奥に運ばれていき、口から胃へ移行します。そのため、通常は鼻くそがありません(※9)。
筆者は、原因不明と言われている逆くしゃみは、ゴミを口の中に落とす反射ではないかと思っています。
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【参考】
※1 小玉正志ほか(1992)『東北地方における光刺激によって誘発されるくしゃみ反射に関するアンケート調査』25(6), 215-219, 医学と生物学.
※2 鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科 形態科学(旧 神経解剖学) 口岩 聡 | 私たちの研究
※3 荒井延明ほか(2012)『犬のアトピー性皮膚炎の発症年齢と臨床症状』16(2), 126-134, 獣医疫学雑誌.
※5 Windsor RC, et al (2006). Canine chronic inflammatory rhinitis. Clin.Tech. Small. Anim. Pract, 21(2), 76-81, PubMed 16711613.
※6 早崎峯夫(2013)『イヌハイダニ』66, pp444-449, 日本獣医師会雑誌.
※7 安藤太ほか『慢性的臨床症状を呈したイヌハイダニ治感染症の診断と治療』68, 385-389, 日本獣医師会雑誌.
※8 Meler E, et. al. (2008). A retorospective study of canine persistent nasal disease : 80 cases(1998-2003). Can. Vet. J, 49(1), 71-76, Pubmed 18320982.
※9 佐々木文彦(2008)『続・ぼくとチョビの体のちがい』学窓社.
【画像】
※ 北森ペット病院
※ Elena Sherengovskaya, Igor Normann, Kira_Yan, Irina Kozorog / Shutterstock
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