今から約40年前、1980年代の猫の寿命は約4.6歳とされていました(※1)。当時の死亡原因としては、感染症、泌尿器疾患(腎不全など)、腫瘍(ガンなど)、呼吸器疾患(フィラリア症、喘息)などが関与していたそうです。
では、現代の猫の寿命を見てみると、2017年ごろは15.3歳と約4倍までに伸びています(※2)。長寿になる背景として、食事・予防(フィラリアやワクチンなど)、動物医療の向上、生活環境などさまざまな要因が関与しています。
今回は、シニア猫の特徴や変化を紹介します。シニア猫の飼い主さんは、特に注意してあげてくださいね。
■加齢に伴う体の変化
加齢に伴って、猫の体には下記の変化が現れはじめます。
皮膚・被毛:皮膚の弾力性の消失、角質化、乾燥、毛の光沢の消失、薄化、白髪
消化器系:歯周病、唾液分泌の低下、消化吸収能の低下、結腸運動の低下、肝機能の低下、膵臓の機能低下
腎臓:尿濃縮能の低下
内分泌系:膵臓機能・副腎機能の低下、甲状腺機能の変化
感覚器系:口渇感の低下、味覚、嗅覚、視力、聴覚の低下
筋骨格系:骨量、筋肉量・軟骨量の低下
神経系:刺激反応性・認識力の低下、順応性の低下
心臓血管系:心拍出量の低下、高血圧、弁の肥厚、末梢血管抵抗の増大
代謝・その他:体温調節能の低下、免疫能の低下、嗜眠、肥満
■シニア猫がかかりやすい病気
・半分以上の猫がかかる可能性?高齢に伴う「認知機能障害症候群」
11~14歳の猫における約30%、15歳以上であれば約50%が、認知機能障害症候群によってなんらかの行動変化が起きていることが報告されています。
具体的な症状としては、
・見当識障害(Disorientation)
狭い場所に入り込む、食事の場所にたどり着けない、家の中を歩き回る、壁を向いてぼーっとしている、食事を食べたのに鳴くなど。自分の置かれている状況が分からない状態です。
・相互反応の変化(Interaction Changes)
攻撃性、甘える、不安感を抱くなど。また、抱っこを嫌がる、無反応になったなど、今までとの関わり方に変化が生じることもあります。
・睡眠、あるいは行動の変化(Sleep or Activity Changes)
昼と夜の逆転、夜鳴き、遠吠え、毛づくろい行動の変化など。
・トイレトレーニングを忘れる(Housetraining is Forgotten)
排泄場所を間違える、寝たまま排泄してしまうなど。
・活動性の変化(Change in Action)
食欲が無くなる(もしくは異常に増える)、食べ物を探せない、同じ場所を舐める、円を描くように回る、無駄吠えなど。
・認知機能障害症候群になった猫に飼い主さんができること
主に、「環境修正」「行動修正」の2つのケアが挙げられます。
・環境修正
家の中の家具などを調整するなどして、猫が今まで通りに暮らせるように環境のサポートをすることです。
たとえば、階段に行けないようにする、ぶつかりそうなところにクッション性のあるものをつける、床を滑らないようにする、
家具などにぶつからないようにどけておく、オムツをしてあげるなど。
ただし、環境の変化はストレスとなるため、引越しなどは絶対に行わないで下さいね。
・行動修正
加齢によって若い時のように体が思うようにいかなくなった猫の、行動のサポートをすることです。
たとえば、頻繁にトイレに連れていく、刺激を与えるためにおやつなどを使い遊びながら頭の運動を心がけるなど。
猫の体に負担のないように行って下さい。スムーズにいかずイライラしても、飼い主さんは絶対に叱らないでください。
・3分の1の猫がかかる可能性?「慢性腎臓病」
猫は、3頭に1頭が慢性腎臓病を発症すると言われています。早期診断には、SDMA、尿蛋白、尿比重、超音波検査による形態的検査が必要です。
血液検査では早期診断は不可能なので、もし、血液検査で数値的に異常が出たときには、すでに腎機能を損ねている可能性が高いことが言えます。
・慢性腎臓病になった猫に飼い主さんができること
慢性腎臓病になったら、食事管理が大事になります。慢性腎臓病のステージ分類、脱水の有無、タンパク尿、血圧、代謝性アシドーシス、ミネラル異常などを指標として、猫によって治療法も食事療法も変わります。
■猫が若いうちにしてあげたいこと
・ワクチンなどの予防
ペットの長寿には、何より予防が必要不可欠。"予防に勝る治療なし”という言葉があるくらいですし、さらにはペット自身で気をつけることができないことからも、飼い主の予防への取り組みは必須です。
筆者が考える特に注意したい病気を、下記でご紹介します。
・ウイルス疾患や細菌感染・・・猫エイズウイルス、猫白血病ウイルス感染症、猫伝染性腹膜炎など。ワクチンで予防します。
・フィラリア予防薬・・・蚊による寄生虫疾患。猫の場合は診断が困難ですが、最近報告が増えているように感じます。注射や飲み薬で予防します。
・重症熱性血小板減少症(SFTS)・・・マダニが媒介する病気で、人への被害が報告されています。マダニが咬着しているのを確認したら、速やかにかかりつけの獣医師にご相談ください。
もちろん、ワクチンがない病気も存在しますが、飼い主さんは、できる限り愛猫のために早い段階でワクチンを受けさせてあげましょう。
・猫の定期検診を受けさせる
病気の早期発見と健康状態のチェックのために、定期健康診断は受けさせましょう。下記は、筆者が考える猫の年齢ごとの健康診断の目安です。
・7歳未満の猫・・・年1回の健康診断
・7~10歳の猫(中年齢)・・・年1回の健康診断(特に、血圧測定、尿検査、血液検査を推進)
・11~14歳の猫(高齢)・・・6~12ヶ月ごとの健康診断(特に、血圧測定、尿検査、血液検査、T4測定を推進)
・15歳齢以上の猫(超高齢)・・・6~12ヶ月ごとの健康診断(特に、血圧測定、尿検査、血液検査、T4測定を推進)
猫の病気は、犬よりも飼い主さんと触れ合うことが少ないからか、気付いたときには重症化しているケースが多いように感じています。いつまでも愛猫に元気でいて欲しいのは、どの飼い主さんも一緒だと思います。より一層、健康には気をつけてあげてくださいね。
※ 本サイトにおける獣医師および各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。また、獣医学の進歩により、常に最新の情報とは限りません。個別の症状について診断・治療を求める場合は、獣医師や各専門家より適切な診断と治療を受けてください。
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【参考】
※1 須田 沖夫(2011)『家庭動物の高齢化対策』日本獣医師会
※2 一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」
※3 Evaluation of Weight Loss Over Time in Cats with Chronic Kidney Disease
※4 L.M. Freeman M.‐P. Lachaud S. Matthews L. Rhodes B. Zollers
【画像】
※ Photography by Adri,D.Bond,brodtcast,Natata,Nitikorn Poonsiri / Shutterstock
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