※2022年12月12日情報更新
犬の優れた嗅覚と聴力を生かし、警察犬、麻薬探知犬、災害救助犬などとして活躍している職業犬の存在は、よく知られていると思います。では、視力についてはどうでしょうか?犬の視力について、また家庭でできるセルフチェック方法について紹介いたします。
■犬の目の構造
犬の目は、機能的には人の目によく似ていますが、構造的な違いがみられます。
・水晶体の厚さ
人の場合、水晶体は約4mmの厚さがあります。犬では約8mmの厚さで、柔軟性に欠けています。人は近距離で10cmくらいまでは焦点を合わせることができますが、犬は1メートル以内に焦点を合わせることは困難であり、一般的に近視であると言われています。
・目の位置
人の目は顔の正面にあるので、周辺視野は最大約210度です。犬種にもよりますが、犬の目は人よりも側方にあるため、周辺視野は最大250~290度になります。
・タペタム(輝膜)の存在
犬の網膜の後ろに反射細胞が層を成している部分があり、タペタムと呼んでいます。人にはありません。目に入る弱い光を反射増幅して、犬はうす暗いところでも獲物を見て捕らえることができます。夜に犬の目が黄緑色に光るのは、この層が引き起こすもので「タペタム反射」と言います。
■視力低下の原因は?
さまざまな眼疾患のほか全身性の疾病が原因で、視力の低下や失明を起こすことがあります。
代表的な眼疾患は、白内障、緑内障、角膜疾患、網膜疾患などです。また、脳神経系や内分泌系の全身疾患の他、遺伝性のもの、老齢化が関係していることもあります。
■視力低下のサイン
犬の視力は、人と比べて評価しにくいと言えます。犬は自分の縄張りについてはよく記憶しているため、環境の変化がなければ視力が低下しても、飼い主さんが気づかないこともあるでしょう。徐々に進行する視力低下や片目のみの場合は、さらに分かりにくいと思います。
日常生活の中で気づきやすい症状としては、次のような例があげられます。
・段差の上り下りをためらう。
・転居や家具の配置換えで、物にぶつかるようになる。
・散歩のコースを変えると、電柱や障害物にぶつかることがある。
・障害物があると、いつも以上に臭いを嗅いで確かめようとする。
■家庭でできる視力確認方法
視力低下の症状がある場合に、家庭でできる視力確認の方法をご紹介します。
・視力確認方法の例1
室内の家具の配置を変えたり、通路に障害物を置いたりして、犬が上手く避けて歩くことができるか観察しましょう。明るい室内とうす暗い室内で行うことや、片目を隠しながらの検査ができれば、失明の程度や、視力低下が起きているのは片側か両側かなどが分かるでしょう。
・視力確認方法の例2
脱脂綿の一片を、片目ごとの視野の中で上から落とします。視力があれば犬はその動きを目で追います。重さのあるものは音がしたり、風圧で気づいたりしてしまいますので、視力検査には不適当です。
■視力低下した場合の対処法
・病院での治療を行う
犬の視力低下が疑われたら、動物病院を受診しましょう。視力の回復が困難なこともありますが、治療によって視力を取り戻せる場合もあります。
・生活環境を整え 安全に配慮する
室内の段差や障害物を減らし、家具の配置換えを極力控え、以前と変わらない環境作りをしてあげましょう。また、安全な散歩コースを選ぶなど、犬の生活環境を整えましょう。
・毎日の活力を与え続ける
無理なくできる遊びや散歩を続けることで、犬は生活の楽しみを失わずに済むでしょう。
目は顔の表面にあり、その異常は発見しやすいと思います。しかし、視力は人のように測定ができませんので、犬の日常行動をよく観察しましょう。視力低下を疑う時は、早めに動物病院を受診して下さいね。
※ 本サイトにおける獣医師および各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。また、獣医学の進歩により、常に最新の情報とは限りません。個別の症状について診断・治療を求める場合は、獣医師や各専門家より適切な診断と治療を受けてください。
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【参考】
※1 林良博監修(2000)『イラストでみる犬学』講談社
※2 林谷秀樹ほか(2009)『人が学ぶ イヌの知恵』東京農工大学出版会
※3 Simon M Petersen-Jonesほか著 印牧信行訳(1996)『小動物の眼科学マニュアル』学窓社
【画像】
※ Nicolae Cirmu,ArlanJace,De Jongh Photography / Shutterstock
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