愛犬家の皆さんは、愛犬の去勢・避妊手術について一度は検討したことがあるかと思います。去勢・避妊は飼い主さんの決断で行いますが、その決断は何を基準に判断していますか?
去勢・避妊手術は、犬の生涯に影響を与える大きな手術となります。獣医師である筆者から、その影響をデータを交えて紹介しますので、犬の飼い主さんは参考にしてみて下さい。
■長生きする可能性がある?
アメリカの研究によると(※1)、手術によって雄犬は13.8%、雌犬は26.3%寿命が延びるという結果を示しています。体重別の平均寿命は、9.1kg未満の小型犬(アメリカでは小型犬とされている)の寿命は14.95歳で、体重が上昇すると短くなり、40.9kg以上では11.11歳と報告されています(※2)。日本では、さらに小さな犬が多いので、手術が寿命を延ばす効果を、国内の獣医師は実感していると想像し
寿命が延びるメカニズムについては、明確ではありません。この研究では、免疫抑制作用を有する性ホルモンの低下が、感染症の生涯発生リスクを下げるからかもしれないと考察されています。
■死亡原因となる病気が減る?
手術をすることによって、感染症、外傷、脈管系疾患由来の死亡原因が減るという研究もあるようです(※2)。また、メスの場合は乳がんのリスクが減少する可能性も示唆されています(図2)。
■がんの発生が見かけ上増えることもある?
手術をした犬の最終的な死亡原因として、移行上皮がん、骨肉腫、リンパ腫などのがんが増えると言われています(※1・図2)。
手術をするとがんが増えるという話をネットで見たことがあります。これは、見方によってはその通りだとも言えます。理由のひとつとして、感染症、外傷、脈管系疾患での死亡が減ることで寿命が延び、死亡原因としてがんが顕在化するからではないでしょうか。手術後に、若い年齢で特定のがんの発生率が高まることは、筆者の経験上は少なくともないと考えています。また、特定のがんの発生率が高まることは、最新の報告では指摘されてい
ネット上には、多くの医学情報が飛び交い、飼い主さんたちもどれが正しいのか情報に疲弊していることと思います。私たち獣医師が医療情報の是非等を判断する際、一般的にPubMed(生命科学や生物医学に関する参考文献や要約を掲載した検索エンジン)にて多くの研究から比較しています。もし、気になる情報があるようでしたら検索してみて下さい。
他の病気との兼ね合いや、年齢のこともあるかと思います。かかりつけの獣医師さんにも相談いただき、愛犬にとってよりよい選択肢を選んであげてくださいね。
※ 本サイトにおける獣医師および各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。また、獣医学の進歩により、常に最新の情報とは限りません。個別の症状について診断・治療を求める場合は、獣医師や各専門家より適切な診断と治療を受けてください。
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【参考】
※2 Silvan R, Urfer et al., Risk factors associated with lifespan in pet dogs evaluated in primary care veterinary hospital., Am. Anim. Hosp. Assoc., 55, 130-137(2019)
【画像】
※ Chutima Chaochaiya / Shutterstock
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