※2020年6月25日情報更新
「ちょっと食べ過ぎかな」「最近運動不足かも……」など、“肥満”について考えることはないでしょうか? 実は人だけではなく、犬も注意しなくてはいけません。思わぬ油断が、生活習慣病の引き金を引いてしまうかも……。
そこで今回は、獣医師の吉本翔先生に、“肥満によってリスクが上がる”犬の病気について、イギリスの論文を元に解説いただきました!
目次
■生活習慣病と密接に関わる肥満
誰しもが一度は耳にしたことがある“生活習慣病”。生活習慣病とは、食事や運動、ストレスなどの日々の生活習慣が病気の発症や進行に関与する病気のことです。生活習慣病の代表例には、がん、糖尿病、心臓病、腎臓病などが挙げられます。
生活習慣病と密接な関係にあるものとして、“肥満”が挙げられます。肥満は、食べすぎや運動不足によって生じますが、人医療では肥満が様々な生活習慣病と密接な関係があると言われています。
獣医療は人医療と比べて、生活習慣病や肥満と病気との関連性についてあまり分かっておらず、得られる情報も限られています。今回は、2017年にアメリカやイギリスの研究グループが報告した論文“Obesity and Associated Comorbidities in People and Companion Animals A One Health”を参考に、犬の肥満と病気の関連性について解説していきます。
■肥満の定義と犬の肥満の指標について
肥満は、体脂肪が過剰に蓄積した状態と定義されています。人では、BMIが肥満の指標として一般的に使用されており、BMIは体重と身長から計算することができます。BMIは、体重(kg)を身長(m)の二乗で割った値とされ、25以上だと肥満、30以上だと重度の肥満と判定されます。
一方、犬では犬種によって体格が大きく異なるため、体重と体高(もしくは体長)を用いて肥満度を測定することは難しいとされています。そのため、犬では肋骨(および全身の骨格)の触診と、上と横からの腹部や腰部の視診から判断するボディコンディションスコア(BCS:Body Condition Score)から肥満度を評価します。
BCSは1~5の5段階のものと1~9の9段階のものがありますが、値が小さくなるにつれて痩せていると判断し、値が大きくなると太っていると判断します。
■糖尿病と肥満の関連性について
糖尿病は人でもしばしば問題となる病気ですが、犬でもみられる病気です(犬の糖尿病については過去の記事を参考にしてください)。糖尿病は、Ⅰ型とⅡ型の二つの型に分かれており、人のⅡ型糖尿病は肥満との関連があるとされています。
一方、犬の糖尿病と肥満の関連性についてですが、犬の糖尿病はⅠ型が多く、肥満との関連性は明確に証明されていないと述べられています。
しかし、糖尿病のリスクを上げるという報告もあり、糖尿病の犬を治療する上で肥満は悪影響に働くといったことも述べられています。犬の糖尿病と肥満の関連性については、人ほど顕著なものではなさそうですが、念のため肥満は避けた方が良いと思います。
■がんと肥満の関連性について
国内では、人と犬の死因の第一位は“がん”であるといわれています。人医療では、肥満とがんの関連性について調べた沢山の研究があり、肥満が食道がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、すい臓がんなど計13種のがんのリスクを上げることが示唆されています。
残念ながら、獣医学領域では大規模な研究をすることは難しく、肥満とがんの関連性についての報告は非常に限られています。ただ、膀胱がんなど、ある種のがんについては、肥満がリスクになると報告もあります。
しかし、がん研究に携わり続けている筆者の意見として、人と犬のがんの細胞は、かなり類似していると思っています。そのため、膀胱がん以外のがんでも、肥満ががんのリスクを上げる可能性は十分にあると考えています。
■その他の病気と肥満の関連性について
今回題材としている論文においては、糖尿病とがんについて取り上げられていましたが、その他の病気についても少し触れたいと思います。肥満は、いくつかの病気の発症リスクを上げることが知られていますが、それだけでなく病気の進行を早めたり臨床徴候を悪化させたりすることもあります。例えば、気管虚脱という呼吸器系の病気では、肥満により呼吸状態が悪化することが知られています。
また、関節疾患では、肥満により痛みがより強くなるといわれています。このように肥満は病気のリスクを上げるだけでなく、病気を悪化させる原因にもなります。
■飼い主が気を付けるべきこと
獣医療では明らかになっていないことは多いものの、肥満は犬の様々な病気のリスクや悪化要因になると考えられています。そのため、飼い主の皆さんは愛犬の体重管理をしっかりしてあげることが重要です。
体重管理についての考え方はそこまで難しいものではありません。摂取エネルギーが消費エネルギーを上回れば体重は増え、摂取エネルギーが消費エネルギーを下回れば体重は減ります。
日々適切な量の食事(摂取エネルギーに相当)を与え、適度な運動(消費エネルギーに相当)をすることが大切です。体重が増えてきたなと思った場合には、食事量を少し減らし、運動量を増やすことで、体重を減らすことができます。
ただ、食事量や運動量が変化していないのに急激に体重が減少する、増加するといった場合には、何らかの病気が隠れている可能性があります。その場合は、動物病院に行って異常がないかを診てもらうとよいでしょう。
今回は、犬の肥満と病気の関連性についてご紹介いたしました。獣医領域では、まだまだ明らかになっていない点も多いですが、肥満は概して健康に悪いと言えます。
愛犬が食べたそうにしていると、ついあげたくなってしまうこともあるとは思いますが、愛犬の健康のためにもしっかりと体重管理をしてあげてくださいね!
※ 本サイトにおける獣医師および各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。また、獣医学の進歩により、常に最新の情報とは限りません。個別の症状について診断・治療を求める場合は、獣医師や各専門家より適切な診断と治療を受けてください。
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【参考】
※ 'Obesity and Associated Comorbidities in People and Companion Animals A One Health
【画像】
※ WilleeCole Photography, rittikorn poonwong, Boryana Manzurova, Chonlawut, Liliya Kulianionak, Nina Buday / Shutterstock
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