【獣医師執筆】犬の嗅覚の可能性は無限大？血液の臭いから「がん」を発見する犬の研究を紹介｜記事｜わんにゃ365

犬は、何かの臭いを察知すると、すぐクンクンし始めますよね。犬の嗅覚はとても敏感で、人よりも遥かに優れています。犬は、その長所を生かして、人間社会のさまざまな場面で活躍しています。警察犬、麻薬探知犬、災害救助犬などは、嗅覚を生かした犬の仕事として有名ではないでしょうか？

今回、この優れた犬の嗅覚が人のがんも探知できるかもしれないことを示唆した研究結果について、ご紹介します。

■人の1万倍の能力！優れた犬の嗅覚

犬の嗅覚の可能性は無限大？血液の臭いから「がん」を発見する犬の研究を紹介 — 出典：https://www.shutterstock.com/

皆さんご存知の通り、犬の嗅覚は、人の嗅覚よりも遥かに優れています。実際、犬の鼻の中にある臭いを感知する受容体の数は、人の10,000倍以上敏感という説もあります。そのため、人が全く気づけないような微かな臭いであっても、犬は簡単に検知することができるのです。

たとえば、警察犬では、犯罪者の臭いを犬に覚えさせ犯人を追跡したり、麻薬探知犬では、渡航者の荷物内にある麻薬を探知したり、災害救助犬では、被災者や遭難者を臭いで見つけ出したりします。犬は優れた嗅覚を利用して、人間社会のさまざまな場面で活躍しています。

■犬が人のがんを発見できる？

米国のBioScent DX社は、犬の鋭敏な嗅覚を利用して、人の一部のがんを検出できるのではないかと考え、次の実験を行いました。まず、本社の研究チームは、3頭の犬に2ヶ月間トレーニングを行い、健常な人と肺がん患者の血液サンプルの臭いを覚えさせました。その後、10人の肺がん患者と40人の健常な人の血液サンプルの臭いを犬に嗅がせ、区別することができるかを調べました。

結果はなんと3頭の犬全てが、感度・特異度が90%以上と、非常に高い精度でがん患者と健常の人の血液を嗅ぎ分けることができたのです！　この結果は、犬の嗅覚が血液中のがんですら、探知できることを示唆する大変興味深いものです。そして、BioScent DX社の研究チームは、近い将来犬ががんの診断に関わる日がくるかもしれないと述べていました。

■犬の嗅覚をがんの診断に使うことは良いのか？

国内において、人の死因の第一位は「がん」です。そして、一般的にがんは早期に発見して、手術によって取りきることが有効な治療法であるとされます。がんの発見が遅くなり、進行してしまうと、治療法が限られ予後が悪くなってしまいます。そのため、がん患者にとって、がんを早期発見することはとても大切になってきます。

犬の嗅覚を用いたがん診断は、診断精度の高さから、がんの早期発見に有効な方法かもしれません。特殊で高価な機器を必要としないことや、採血だけでできるため患者への負担も少なくなります。また、従来の診断法とは異なるアプローチですので、従来の診断法と組み合わせることで、より診断精度を上げることも可能になるかもしれません。

一方で、犬に十分なトレーニングをするのに時間がかかることや、犬ごとに診断精度が変わる可能性はあります。また、検査機関ごとにトレーニングされた犬を確保しなくてはいけないため、全世界で普及させることは難しいかもしれません。

■犬の嗅覚によるがん診断の将来性

犬を用いてがんを診断することは面白い内容ですが、まだまだ報告は少なく発展途上の研究領域ですので、今後のさらなる研究が求められます。これまでにBioScent DX社は、肺がんだけでなく、卵巣がん、大腸がん、乳がんなどさまざまな種類のがんで研究を行っているようです。もしかしたら、いろいろながんに応用できるかもしれません。

また、BioScent DX社は、最終的に犬の嗅覚がどの物質を検知しているのかを突き止め、それを検出することで、犬を用いずとも簡便かつ高精度に診断できる方法が確立できる可能性も述べていました。

今回は、犬が嗅覚を用いて、人のがんを発見できるかもしれないという研究についてご紹介しました。実際の臨床現場で応用するためにはまだまだ長い道のりかもしれませんが、大変興味深い内容ですよね。

犬はさまざまな場面で、私たち人が持たない能力を用いて、人間社会で活躍しています。犬ががん診断でも活躍する日が来るかもしれないと考えると、犬の嗅覚の可能性は無限大かもしれませんね。