【獣医師執筆】犬は飼い主の気持ちが分かる!? 獣医師が体験した驚きの出来事とは｜記事｜わんにゃ

様々な雑誌で、「飼い主さんは犬の気持ちを理解しましょう！」という記事が出ています。飼い主さんがわんちゃんの気持ちを理解することはとても大事なことです。

それでは、逆にわんちゃんは飼い主さんの気持ちをどこまで理解しているのでしょうか？　今回は筆者の体験談を交えながら、このテーマについて掘り下げていきたいと想います。

■ある診察室での出来事

診察室に飼い主さん、わんちゃん、私がいました。わんちゃんは肺がんで、私は病状を飼い主さんに説明していました。当然のことながら、飼い主さんは肺がんと聞いて気落ちされて言葉少なく、私の話を聞いておられました。

わんちゃんは飼い主さんのやや後ろ横で座っていたのですが、途中からわんちゃんが小刻みに震えているのです。そのとき、私は「このわんちゃんは飼い主さんが落ち込んでいるのに気が付いたんだ！」と思いました。

よく“犬は飼い主さんの顔をみて飼い主さんの感情を読み取る”と言います。しかし今回の場合、わんちゃんからは飼い主さんの顔は見えていませんでした。おそらく飼い主さんの声のトーンで、飼い主さんが落ち込んでいると理解したのだと思います。

オーストラリアの研究者が、人間の笑顔と怒った顔をタッチスクリーンに表示して、24匹のわんちゃんをそれぞれグループに分け、一方のグループには連続して笑顔の写真を選ぶとご褒美を、もう一方のグループには怒った顔の写真を選ぶとご褒美を与えました。

その結果、わんちゃんは笑顔の写真を選ぶのは早かったのですが、怒った顔の写真は同じように訓練したにもかかわらず、選ぶのを嫌がったそうです。この実験で、わんちゃんは人間の感情にとても敏感なことが分かりました。

2012年、米国のバーンズ博士は、わんちゃんが人の行動を理解するかどうかを調べるため、無麻酔下（このために数か月間犬を訓練したそうです）で、わんちゃんの脳の機能性MRI検査（通常のMRI検査ではなく、生体が何か刺激を受けたときに脳の活性部位を画像化する検査）を行いました。

その結果、わんちゃんの脳のある部位が、人の手信号に反応していることが分かりました。この実験結果により、わんちゃんが人の動作を脳で考えて行動することが、はじめて科学的に証明されました。すばらしい発見です。

私は病気（特にがん）のわんちゃんの飼い主さんに、よく「わんちゃんは小学校低学年の知識を持っていますから、飼い主さんが落ち込んだらわんちゃんは理解しますよ。明るく振舞ってくださいね」と言っています。この説明は、これまでの獣医師としての経験から得たものであり、科学的根拠は持っていませんでした。

今回のこの実験結果で、私が常日頃言っていたことは間違いではなかったんだ、と勇気をもらいました。

インターネットを見ると、わんちゃんが人の感情を理解しているんだな、という記事がたくさんあります。少し紹介しましょう。

・夫婦喧嘩をすると、愛犬がソワソワして落ち着かなくなります。

・うちのわんちゃんは、シニア期には母の愚痴に相槌をうっていました。

・笑いながら高いトーンの声で呼ぶと嬉しそうに駆け寄ってきてくれますが、怒った顔で低い声を出すと警戒して逃げて行ってしまいます。

・とても悲しい時、必ず私のそばに来て、ずっと黙って落ち着くまでそばに居てくれます。

・家族がケンカになると、なぜか長女の私が母からいじめられていると思うのか、すぐに間に入ってくれて、母の目をまっすぐ見て、私に背中に向けて庇おうとしてくれます。

このような事例を見ると、わんちゃんは本当に飼い主さんの気持ちを理解しているのだと実感します。

あなたが怒った時、悲しい時、嬉しい時、あなたの犬はどういう反応をしますか？しょんぼりと尻尾を垂れるのか、そばによってきて手を舐めるのか、などなど、そのどれもがあなたの感情を理解した上での行動かもしれません。

人と犬がお互いに理解することによって益々絆が深まっていくのだと思います。ぜひそのような関係を作ってください。そうすることによって、犬はさらに愛おしい存在になっていくことでしょう。

【関連記事】

【参考】

※2 グレゴリー・バーンズ（2015）『犬の脳を科学する』（桜井みどり訳）シンコー・ミュージック.

【画像】

※ Zivica Kerkez, DuxX, Yuliya Evstratenko, BestShots, Lizardflms / Shutterstock