「子犬に甘噛みされているけれど、エスカレートしないか心配……」という飼い主さんからのご相談は結構あります。そのまま様子を見ていても大丈夫なのでしょうか?
今回は、わんちゃんの甘噛みと本気噛みの違いや対処法について、獣医師である筆者がお伝えしていきます!
■「甘噛み」とは?本気噛みとの違いはなに?
「甘噛み」とは、わんちゃんが怪我をしない程度に軽く噛む行動のことをいい、子犬でよく見られます。「本気噛み」とは、わんちゃんが本気で怒って噛むことです。そのため、本気でわんちゃんに噛まれると噛まれた場所が傷つき出血することになります。
■なぜ甘噛みするの?
わんちゃんが甘噛みする理由としては、大きく分けて3つあると言われています。
(1)歯に違和感があるから
特に子犬の場合、乳歯の抜けかわりの時期(大体生後4~6ヶ月くらい)になると歯がグラグラするので違和感が出て、何でも良いから噛みたいという衝動に駆られる可能性もあると言われています(※1)。
通常は、タオルやペットシーツなど身近にあるものを噛みたがりますが、そのときに飼い主さんが手で遊ばせていたりすると、興奮して甘嚙みすることが増えるようになる傾向があります。この時期には、飼い主さんは手をおもちゃにして遊ばないようにしましょう。
(2)何かを主張したいから
子犬だけでなく成犬であっても、飼い主さんが出かけるときなど独りにされたくない場合に、洋服を噛んで引っ張って阻止しようとすることがあります。このときの噛み加減はわんちゃんによって異なりますが、飼い主さんの洋服だけでなく手や足などを噛むこともあります。
また、遊びに誘うときも、手を甘嚙みするなどして、口で意思表示を行うことがあります。
(3)本能による欲求とストレス発散
わんちゃんにとって、遊びというのは本能を満たす上でとても大切な行動の1つです(※2)。そのなかで、口を使った遊びというものがわんちゃんにはあり、噛むことでストレス発散にも繋がっていると言われています。
そのため、ストレスが溜まると甘噛みなどの行動が増える場合があります。
■甘噛みはしつけなくても大丈夫?
最終的に噛み癖が問題になる場合を考えてみましょう。たとえば、筆者は下記のような場合を想定します。
・家具など壊してほしくないものを噛む場合
・人の手などを怪我するほど強く噛む場合
どの時点で問題とするかは、飼い主さんやドッグトレーナーさんによって線引きが異なります。たとえば、甘噛みであっても人の手を噛むのはNGと考える方もいらっしゃいます。しかし実際には、壊されても問題にならないおもちゃやタオルなどを噛んでいたり、人の手も怪我するほど強く噛まないのであれば問題にならないこともあります。
重要なのは、飼い主さんが線引きをし、AはダメだけれどBはOKということを決めたら、一貫した行動をわんちゃんに見せることです。「いつもAはダメと言われているのに、日によってAがOKになったりダメになったりする」などといったことが起こると、わんちゃんは混乱してしまいます。たとえば、人の靴を噛むのはダメだけれどおもちゃはOKというように決めて、わんちゃんの噛みたい欲求を満たしてあげると、多くの場合うまくいきますよ。
■噛んだら叱るべきなの?
わんちゃんの性格や状態はそれぞれ異なるため、人のしつけと同じく「絶対に100%叱るべきではない」とか「100%叱るべき」ということように白黒はっきりとは決められない面があります。
ただし、叱るのは最終手段にし、できるかぎり避けたほうが良いと獣医師としてお伝えします。
叱ることでわんちゃんの行動を止めさせることは可能です。しかし、しょっちゅう叱られているわんちゃんでは、飼い主さんに叱られないかどうかを常に気にして緊張が続くようになったり、ストレスに関連した行動が多く見られたりすることが分かっています(※3)。
物を噛む行動というのは、わんちゃんにとってはごく普通の行動です。愛犬が愛犬らしく自由に生活していけるために、また飼い主さんご自身もわんちゃんとの暮らしを楽しんでいけるために、何が重要かぜひ考えてみてください。
■噛み癖の家庭での対処法2つ
(1)噛んではいけないものを近くに置かない
噛めるものを全て片付けて、何も与えない状態にしてしまうと欲求不満になります。その後、ずっと吠え続けるなどといった別の問題行動を起こすようになる場合があります。飼い主さんが目を離すときは、わんちゃんが噛んでもOKなものだけを置いて、噛んではいけないものを置かないようにしましょう(※4)。
(2)お散歩や遊びでストレス発散
甘噛みから本気噛みにエスカレートしてしまう場合のよくある原因の1つとして、ストレスが挙げられます。たとえば、わんちゃんにとって遊びやお散歩は、気持ちを満たすためには毎日欠かせないものですが、十分に与えられていないとストレスを感じる事もあるかもしれません。特に噛み癖が多い場合は、ストレスを発散させるように生活環境を工夫してあげましょう。
わんちゃんの噛み癖は、飼い主さんにとって問題になりやすいテーマです。何をしたら良くて何をしたらいけないのかを教えてあげることで、わんちゃんにとっても飼い主さんにとってもハッピーな関係を築いていけると感じています。
愛犬との暮らしがもっと楽しくなりますように、参考にしていただけたら嬉しいです。
※ 本サイトにおける獣医師および各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。また、獣医学の進歩により、常に最新の情報とは限りません。個別の症状について診断・治療を求める場合は、獣医師や各専門家より適切な診断と治療を受けてください。
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【参考】
※1 Kris B. Puppies need dental care too. Proceedings of European Veterinary Dental Forum 2018.
※4 Chewing: How to stop your dog’s gnawing problem. The humane Society of The United States.
【画像】
※ Ilike,Lichtflut,VanoVasaio,smrm1977,Jaromir Chalabala,David ODell / Shutterstock
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