今回ご紹介するのは、“人と猫との関係性”に関するお話の続きです。前回の記事“一体、猫の魅力ってなに?獣医師が紐解く「人と猫との関係性」~その1~”では、猫の魅力にフォーカスして解説しました。
病気の研究は、犬猫で同等の進歩をとげていますが、こと認知行動学的(心理や人との関係性などの研究)なことは、犬の方が猫よりはるかに進んでいます。それは、猫が研究向きでない動物だからです。
目次
■猫は研究が嫌い?
猫は犬と違い、散歩をしない動物です。テリトリーから出るのを怖がるので実験室なんて行けません。加えて、研究者など知らないヒトへのストレスが犬より強く出ます(※1)。
■猫は犬と進化の方向が少し違う?
犬は、例えば犬種の改良などにみられますが、人へ従う方向へ進化してきています。しかし猫は、そもそも飼い主さん自身が常に自分に従って欲しいとは思っていないことが多いと思います。こういう飼育下の動物では、褒めるといった報酬系をはたらかせた実験は成功しません。
とはいえ、近年人と猫の関係性の一部が解き明かされてきました。実は、日本人研究者の功績がとても大きい分野なんですよ。
■猫と飼い主の深い関係性(飼い主と名前の認識)
人と動物との関係性を考えるのに重要なポイントは、動物による飼い主と自身の名前の認識です。猫が飼い主の声を認識していることが科学的に初めて証明されたのは2013年です。日本人研究者によって報告されました(※2)。そして、その研究者により、最近、猫は自身の名前もちゃんと認識していることが証明されました(※3)。
■人との関係性を築く時期(人への慣れ)
猫は7週齢以下で人との接触がないと、その後慣れるのが難しいと言われています。犬は14週齢でもなんとかなります(※4)。
筆者は、2歳程度で子猫を産んで行き倒れた母猫と10年間共に暮らしていますが、8年目くらいに、ようやく寝ぼけたときに一瞬触れる程度になりましたが、普段は1m以上近づくことができません。
■野良猫が人に慣れているかを見分けるポイント
猫好きは、野良猫に出会うと触りたくなりますよね。しかし、猫パンチや咬傷には注意が必要。フードによってくるかどうかもポイントのひとつですが、先回のコラムに書いたように、ニャアニャア鳴いたり、モノで遊ぶような行動が見られたりしたら、その猫は相当人に慣れています。
■とはいえ、人に慣れきれない猫
猫が不思議なのは、急に態度を変えることです。機嫌がよいとゴロゴロ言ったり鳴いたりしながら、猫は自分からやってきます。そこで撫でると猫は喜びますまずが(尾が立つのは相当喜んでます)、急に嫌がって、逃げたり咬んだりします。
撫でられる行為は、猫同士ではグルーミングに相当しますが、猫同士のそれは、上位の猫が下位の猫にするものです(※4)。気持ちよさと、微妙な感覚が混在しているのかもしれませんね。
このコラムを書くにあたり調べ物をしていて、猫の行動で筆者も知らないことがありました。猫が布団に入ってくる行動です。
寒いからというのもあるそうですが、夏にも入ってくるし、不思議に思っていましたが、どうも人の腋のにおいを嗅ぎに来るのがひとつの理由のようです。腋のニオイが、母猫の乳首から出るニオイに似ているそうです(※5)。
猫の行動は犬ほど明らかになっていません。謎のままの方がよいという飼い主さんもいるかもしれませんが、猫の動物行動学はとても奥が深いです。
ちなみに(※5)の著者は、猫の比較認知学の非常に著名な研究者です。興味のある方は、ぜひ本を読んでみてくださいね。
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【参考】
※1 Serpell, J.A. (1996). Evidence for an association between pet behavior and owner attachment levels. Applied Animal Behaviour Science 47, 49-60.
※2 ツレない猫、答えないけど飼い主の声聞き分ける。科学的に証明
※3 ネコは自分の名前を聞き分ける~ヒトの発する「自分の名前」と「他の名詞」や「同居ネコの名前」を区別する能力を実験的に証明~
※4 ジョン・ブラッドショー(2014)『猫的感覚(動物行動学が教えるネコの心理)』(羽田詩津子訳)早川書房.
※5 齋藤慈子(2010)『飼い猫のココロがわかる 猫の心理』西東社.
【画像】
※ Joop Snijder Photography, Dzimitry Valiushka, Africa Studio, Olesya Kuznetsova, JakubD, Pathara Buranadilok, Dora Zett / Shutterstock
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