近年はペットと暮らせる共生住宅が続々と誕生していますが、障がい者がペットと共に暮らせる場所はまだまだ少ないように感じます。そんな中、注目を浴びているのが保護犬・保護猫と一緒に暮らせる障がい者グループホーム『わおん』。
今回は代表の藤田英明さんに、ペットケア設備と専門知識を持つスタッフによって実現したという日本初の共生型福祉施設『わおん』の魅力を詳しく教えていただきました。
■動物と障がい者が共生する施設を
―早速ですが、障がい者グループホームや高齢者向けデイサービスで保護犬を飼育しようと思い立たれたきっかけを教えてください。
藤田さん:日本では近ごろ、殺処分は良くないという啓蒙活動や保護団体などの活動が活発になってきていますが、先進国の中では最も犬猫の殺処分が多い国です。そのため、「1頭の命を持続可能性の高い形で救い出せないものだろうか?」と思い、サービスをスタートさせました。
私自身も保護犬5頭、保護猫4頭と暮らしており、「自宅に次々と保護犬猫を受け入れ続けることも経済的、物理的に難しい……」という実体験も、サービスを思い立つきっかけになりましたね。
―ご自身の実体験と福祉という観点を併せたわけですね。
藤田さん:実は障がい者の方々の約70パーセントは動物が好きという統計調査があります。しかし、障がい者施設で動物と暮らせるところは少ないんです。だからこそ、「ニーズと現実のギャップ」を埋めていく必要があると思いました。
動物がいることによって、精神的・生理的・社会的にとても大きな効果があることは研究で明らかになっています。障がい者や高齢者の方々の生活の質(QOL)の向上にも役立つと考え、『ペット共生型福祉施設わおん』を作りました。
―障がい者手帳の等級や介護度が高くても入居することは可能なのでしょうか。
藤田さん:可能です。しかしながら、基本的には軽度から中度の方々が中心になるので、今期からは中重度者の方々にも対応できるバリアフリーのグループホームも建設中です。
■ペットのおかげで前向きな変化が
―そういえば、保護犬や保護猫はどこから引き取っているのでしょうか。
藤田さん:基本的には動物愛護センターですが、その他保護団体様などから引き取ることもあります。
―各施設内には、常時何匹くらいのペットがいるのでしょうか。
藤田さん:保護犬か猫が1頭以上います。福祉業界は特に動物好きな方々が多いため、スタッフが愛犬と一緒に通勤できるようにしているので多い時は4~5頭ほどいますね。ちなみに、保護猫と暮らせる障がい者グループホーム『にゃおん』もありますよ。
―『わおん』では入居者の方が飼っているペットも受け入れてもらえるそうですが、犬種などの規定はあるのでしょうか。
藤田さん:各種予防接種は義務にしていますが、規定は特にありません。実際は、小型から中型犬が大半です。建物の大きさに比してあまりに大きい犬の場合は広めの建物の方をおすすめしています。
実は経済的理由などから、入居者が動物を飼っているケース自体が少ないんです。そのため、飼いたいけど飼えなかった方々に喜んでいただけています。
―犬たちのお世話は入居者が行う仕組みなのでしょうか。
藤田さん:弊社のスタッフと入居者が一緒に行っています。弊社では動物看護師によるペットの訪問介護・看護・ペットシッターサービスも行っているので、しつけ・病気の発見・グルーミングやシャンプーなどの方法をスタッフや入居者の方々に指導しています。
―ペットと暮らすにあたり、各施設内にはどんな配慮や工夫をされているのでしょうか。
藤田さん:設備面でいうと、床を滑りにくくする溶液の塗布や、調理場へ犬が入れないようにするなどの配慮を行っています。定期的にシャンプー・トリミングもしています。
あとは普通にみなさんがご自宅で愛犬と過ごされているのと同じように入居者の方々もペットと過ごされていますね。
―保護犬や保護猫と共に暮らすことで、入居者にはどんな変化や効果が見られているのでしょうか。
藤田さん:具体的な例でいうと、下記のような効果がありました。
【ケース1】20代前半・男性・知的障がい・てんかん
この男性は犬が大好きでしたが、自宅で家族と生活していた時は経済的にも厳しくて飼うことができませんでした。家族とのケンカも絶えず、短い周期でてんかん発作を起こしていたのですが、『わおん』に入居してからは犬の散歩に自らでかけるように。
地域で犬の散歩をしている方々と友達になり、てんかん発作も全く起きなくなりました。仕事から帰ってきて「ミリンちゃん(弊社の男性棟で保護した犬の名前)」がいるとホッとするとおっしゃっています。
【ケース2】40代・女性・身体障がい・精神障がい
こちらの女性は夫と息子からのDVで骨折し身体障がいとなり、うつ病も発症しました。飼っていた愛犬と一緒に「わおん女性棟」へ入居したのですが、家族と離れて暮らすことによって精神状態が安定しました。
さらに、自分の愛犬と一緒に生活できることで就労意欲がアップし、週3日は就労支援事業所へ通っています。ホームへ帰って来ると愛犬の散歩を欠かさず行っており、今後は一般企業への障がい者雇用枠での就職も希望されています。
―ペットという存在がいるからこそ、入居者の方々の世界が広がり、前向きな考えをもちながら未来に向かって歩いていけているんですね!
■今後は人工知能を活用したマッチングサービスを計画中
―福祉×ペットという新しいサービスを考案された藤田さんは今後、どんな新サービスやアイデアを実現していきたいと考えているのでしょうか。
藤田さん:詳しいことは企業秘密です(笑)。でも、人工知能を活用しながら、障がい者の方々と障がい者を求めている企業のマッチング率を高めていきたいと考えていますね。
―その秘密が明るみにでる日を楽しみにしています!(笑) 最後に読者の方に伝えたい想いなどを教えてください。
藤田さん:『わおん』は”軽度の知的・精神・身体に障がいのある”方々のグループホームを展開しており、その目的は下記です。
・障がい者が安心して暮らせる”住まい”づくり
・保護犬猫の新たな”ハウス”づくり
・障がい者が働く意欲を取り戻せる”きっかけ”づくり
・ペットと一緒に入居できる障がい者に対する合理的配慮
・動物介在活動と動物介在療法による生活の質(QOL)の向上
・動物好きのスタッフによる良好な人間関係
・ペットと一緒に通勤できる動物フレンドリーな職場
・ハウジングファーストとオープンダイアローグの実践
『わおん』は障がい者の方々が安心して暮らせる場と、人間のエゴで殺処分されている罪のない犬猫の命をできるだけ多く救うための“ペット共生型障がい者グループホーム”です。
レベニューシェア(参画を希望される企業様とのコンテンツ利用契約)方式で全国に展開を進めています。興味を持っていただけましたら、ぜひ弊社のホームページをご覧くださいませ。
障がい者や高齢者も健常者と同じように癒され、満たされながら毎日を紡いでいける……。そんな場所が『わおん』なんですね。保護犬・保護猫たちの命を助けながら障がい者の方々の笑顔を育んでいる『わおん』は、今後も目新しいサービスを展開していくはず。
『わおん』のように障がいの有無に関係なく、すべての人が大好きなペットと愛しい日々を積み重ねていける場が増えていくことを願いたいですね。本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました!
<取材協力>
藤田英明(ふじたひであき)
ペット共生型福祉施設『わおん』の代表。保護犬・保護猫と暮らす、障がい者グループホームを、ペットケア設備と専門知識を持つスタッフと共に実現。HP:https://waonpet.com/
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