「愛犬がおもちゃを食べてしまった」「ちょっと目を離していたすきになにか食べてしまった」など、犬の誤飲による診察も多いもの。普段注意しているつもりでいても、少しの気の緩みが愛犬を苦しめることになるかもしれません。
そこで今回は、室内や散歩中によくある異物誤飲について、事例をもとに獣医師の北森隆士先生に解説いただきます。
■原因物質
以下、誤飲の原因物質について述べますが、口に入れることによって疾患を引き起こすものとして、広い意味でとらえています。
(1)異物性腸閉塞、腸穿孔の原因となるもの
ひも、靴下・ストッキング、タオル、竹ぐし(焼き鳥、団子)、おもちゃ、ボール、とうもろこしの芯、電池など。
下記の写真は、最近当院で手術により摘出した異物です。
(2)中毒物質
不凍液、除草剤、殺鼠剤、人の薬、植物(ユリが有名)など。
なかでも、人の薬の誤飲のケースが目につきます。経験的に、慢性疾患の薬(血圧の薬、うつ病の薬など)が多いです。おそらく、飼い主さんが毎日飲んでいるのを見て、興味がわくのだと思います。
論文でも同様の報告がありますが、海外では、加えてビタミン系のサプリメントも注視されています(※1)。
(3)中毒物質(人の食品)
チョコレート、ネギ類(ネギ、玉ねぎ、ニラ)、ブドウ(ブドウ、レーズン)、キシリトール含有製品など。
このカテゴリーは飼主の認知度も高いですが、海外の論文を見ていると、マカダミアンナッツ、発酵中のパン生地が危険な食品として必ず上がります(※2)。
マカダミアンナッツは、原因は不明ですが、抑鬱、嘔吐、体温上昇を惹起し、パン生地は胃内での発酵により、胃内にガスが充満し危険になります。
(4)屋外での注意
肥料、石、カエル(干からびた死骸)、腐った食品、煙草など。
いわゆる拾い食いです。「何か食べたけど、見えなかった」という飼い主さんが多いです。一過性の下痢・嘔吐で済めばよいですが、意外と物質を特定できないので、診察に苦慮することがあります。カエルは有名な寄生虫の感染を引き起こします(上記写真はマンソン裂頭条虫)。
■誤食した時の対処法
自宅での対処はおすすめしません。特に、上記(1)~(3)やタバコの誤飲の場合は、直ちに受診してください。塩を飲ませる飼い主さんがいますが、塩中毒という中毒もあるのでとても危険です。
犬の誤飲は、飼主が思っている以上に多いです。私たち獣医師は、飼い主さんの「まさか、こんなことになるなんて……」という言葉を、日常よく聞くのです。飼い主さんが誤飲を認知していれば、粛々と検査・治療を進めますが、問題は飼主が知らない場合、誤診の原因にもつながります。
飼い主さんは、日頃から誤飲に対する注意をしてください。そして、誤飲は室内で起こることが多いという認識をもってくださいね。
なお、国内には誤食に関する大規模な調査論文はないと思われるが、大手保険会社が誤食に関する保険請求のデータを解析して商業誌に投稿した記事や、学会報告はウェブ上で公開されています。興味のある方はぜひ読んでみてくださいね(※3)。
審査論文ではない、また、保険加入動物というバイアスはかかりますが、事故の多い犬種なども調査されており、非常に興味深いですよ。
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【参考】
※2 Cortinovis C. et al. (2016). Household Food Items Toxic toDogs and Cats. Front Vet Sci, 22, 3, 26.
【画像】
※ 北森ペット病院
※ Viorel Sima, Pressmaster / Shutterstock
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