私たちが日々当たり前に使っている薬。犬猫の体調が悪いときに服用させ、体調が回復したという経験をお持ちの飼い主さんもいると思います。ところで、“薬が効く”とはどういう仕組みなのでしょうか。
前回の記事“人工的?怖いもの?知っておきたい「薬」についての正しい知識~前編~”に続き、前職は製薬会社の研究職だった筆者が解説いたします。
■薬は病気を「治すもの」ではない?
誤解されがちですが、外部寄生虫(ノミ、ダニ等)の駆除薬等を除き、多くの薬は、
・病態を抑える(数値を下げる)・・・高血圧や緑内障の薬
・進行を遅らせる(数年後の生存率を上げる)・・・腎臓や癌の薬
・症状を緩和させる(痒みや痛みを緩和する)・・・アトピーや関節炎の薬
などの効果を期待するものがメインで、病気それ自体を完治させることを目的とした薬は少ないです。そのため、ペットに薬を飲ませて状況が改善したと思っても、飼い主さんの判断で勝手に薬を止めるのは非常に危険です。
■薬は効果が無くても意味がある
たとえば、愛犬が足を舐めていたとします。しかし、痒いのか、ストレス行動か、ときに獣医師でも判断がつかないことがあります。そうした、犬に起こっていることを投薬により事後的に評価することがあります。たとえば、痒みを抑える薬を使い効果が無ければ、この愛犬の行動は痒みではなくストレスではないか、という判断が可能になるためです。
動物病院で処方された薬が効かないからと、すぐに転院される飼い主さんがいますが、治療の状況についてよく説明を受けた上で、少し慎重に考えた方がいいかもしれません。
■人の薬と動物の薬の違い
ワクチンなど一部の薬を除き、人の薬と動物の薬は基本的に同じです。動物病院によって若干の違いはあると思いますが、当院では、約7割程度、人の薬を使っています。
■薬を飲み続けても平気な理由
投薬後の全ての薬は、吸収(Absorption)され、体のあちこちに分布(Distribution)し、肝臓で代謝・分解(Metabolism)され、尿(腎臓)や便(消化管)から排泄(Excretion)されます。
頭文字をとって「ADME(アドメ)」といいます。このように、薬は最終的に体外に排泄されるので、副作用などのリスクを除けば、処方された適量を飲み続けている限りにおいては、理論的には体中にどんどん蓄積して害が出ることがないのです。しかし、投薬のシミュレーションは通常健康体や対象疾患の生体で実施します。たとえば、肝臓が悪かったり、腎臓が悪かったりすると、シミュレーションから外れた薬の動きになる可能性があります。命に関わらない疾患の場合は、新薬が販売されても1年程度は使用せず、その間は副作用情報をしっかり精査し、どのような状況の場合に投薬のリスクがあるのかを見極めることも、主治医の仕事だと理解しています。
大切なペットが薬のお世話になることが、ときにはあると思います。ペットの症状は、飼い主さんの正しい理解と知識次第で変わってくるということを覚えておいてください。心配なことがあれば、すぐにかかりつけ医に相談してくださいね。
※ 本サイトにおける獣医師および各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。また、獣医学の進歩により、常に最新の情報とは限りません。個別の症状について診断・治療を求める場合は、獣医師や各専門家より適切な診断と治療を受けてください。
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