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【獣医師執筆】人と犬との関係には諸説ある!? 「α説・赤ちゃん説・共進化仮説」から紐解く

北森隆士

獣医師
北森隆士

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【獣医師執筆】人と犬との関係には諸説ある!? 「α説・赤ちゃん説・共進化仮説」から紐解く

あくびがわんちゃんにも伝染すると感じたことありませんか? 実はこれ、立派に科学的に証明されている事実です(※1)。

通常、人以外の動物は、互いに直視することは威嚇の表現ですが、人とわんちゃんは見つめあってコミュニケーションをとります。人とわんちゃんとの関係は、非常に特別なものです。

これまで人とわんちゃんとの関係を説明するモデルに、(1)オオカミ型モデル、(2)赤ちゃんモデルがありました。今回は(1)(2)に触れつつ、最近の新しいモデルである、(3)共進化、収れん進化モデルについてお話をします。

■1:オオカミ型モデル

人と犬との関係には諸説ある!? 「α説・赤ちゃん説・共進化仮説」から紐解く
出典:https://www.shutterstock.com/

一部の訓練士を中心に流行ったモデルです。わんちゃんはオオカミの仲間だから、野生のオオカミの群れのα(最上位の個体)ように、飼い主をボスだと思って接しているというモデルです。

しかしこのモデルは、既に否定されています(※2)。そもそも野生下ではオオカミは家族形態で、序列モデルではありません(※3)。

私もこのモデルには実感はありませんでした。わんちゃんは飼い主さん以外の言うこともよく聞きくからです。

また、わんちゃんは……

・食事を互いに分け与える人間

・食事を盗む人間

・ロープの引張りあいで犬に勝たせる人間

・犬に勝たせない人間

のうち、“食事を互いに分け与える人間”と“ロープの引張りあいで犬に勝たせる人間”を選ぶという実験もあります(※4)。強いαを求めてはいないのです。

■2:赤ちゃん(子ども)モデル

人と犬との関係には諸説ある!? 「α説・赤ちゃん説・共進化仮説」から紐解く
出典:https://www.shutterstock.com/

心理学者や社会学者が採用したモデルです。(1)と違い、この考え方は飼い主の感情面や文化的な側面もあり、否定も肯定もできません。

しかしわんちゃんは、新しい環境下では親しい人間がいれば、ストレスレベルは下がりますが(血中コルチゾールの測定)、親しいわんちゃんがいても変わりません(※5)。まるで、人の子どもが母親に示す愛着パターンです。

わんちゃんの分離不安症も、人のそれに似ているという指摘もあり(※6)、一理あるモデルです。

■3:共進化、収れん進化モデル

人と犬との関係には諸説ある!? 「α説・赤ちゃん説・共進化仮説」から紐解く
出典:https://www.shutterstock.com/

これは、オオカミのなかのある一部の個体(人にフレンドリーなど)が、食事を得るなどのために人と接近し、人の方も、狩猟や猛獣などから身を守るためにわんちゃんを利用し、互いに絆を深める方向で進化してきたというモデルです。

現代のわんちゃんは、非常に優れた、人とのコミュニケーション能力を持っています。以前お話をした“犬の「脳」はどうなってるの?思考(賢さ)&側面と構造面な側面から解説”の記事にもあるように、わんちゃんは特殊な訓練をうけなくても、人の“指さし”や“目線“の指示に非常によく反応します。類人猿でもこの反応は大変な訓練を要します。

オオカミは子どものころから飼育すると、慣れはしますがこの反応は獲得できません。オオカミの一部から独立した個体の進化の過程で、このようなコミュニケーションスキルを獲得したと考えられています(※3・4・7・8)。

人と犬との関係には諸説ある!? 「α説・赤ちゃん説・共進化仮説」から紐解く
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ところで、近年様々な脊椎動物で、母子間の絆を強化するオキシトシンというホルモンが話題です。子どもの接触、臭い、泣き声で、母のオキシトシンレベルが上がり、ミルクが出たり、グルーミングをしたり、保温行動などの母性行動が活発化します。

そして、その母性行動が子ども側のオキシトシンベルを上げて、子どもの接触や鳴く行動を更に強化します。正のフィードバック(互いの行動の強化)、つまり、絆の形成です(※8)。

そして、この絆の形成が人とわんちゃんの間で観察されることが分かりました。互いに見つめるだけで、互いのオキシトシンレベルは上昇するのです(※9)。

最後に面白い実験を紹介します。人とわんちゃんの間に透明の衝立と真黒い衝立を置きます。両衝立のわんちゃん側にボールをおいて、「ボールを持って来い」と指示すると、わんちゃんは透明の衝立の前のボールを持ってきます。わんちゃんは人が見えているだろうと想像する側のボールを持ってくるのです(※4)。

人はわんちゃんにとってのαでもなく、赤ちゃんでもなく、やはりパートナーだと筆者は思います。

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【参考】

※1 Romeo, T ei al. (2013). Familiarity bias and physiological responses in contagious yawining by dogs support link to empathy. PloS one, 8, 71365, PMID23951146.

※2 Mech, L.D. (1999). Alpha status, dominance, and division of labor in wolf packs. Canadian journal of Zoology, 77 1196-1203.

※3 アダム・ミクロン(2014)『イヌの動物行動学: 行動、進化、認知』(藪田慎司ほか訳)東海大学出版部.

※4 ブライアン・ヘア(2013)『あなたの犬は「天才」だ』(古草秀子訳)早川書房.

※5 Tuber, D.S. et al. (1996). Behavioral and glucocorticoid responses of adult domestic dogs to companionship and social separation. Journal of Comparative Psychology, 110, 103-108, PMID 8851558.

※6 Overrall, K.L., (2000). Natural animal models of human psychiatric conditions. Progress in Neuropsychopharmacology Biology Psychiatry, 24, 727-776, PMID 11191711.

※7 藤田和生(2016)『イヌはヒトの行動に何をみているか?』The Japanese Journa of Animal Psychokogy, 66, 1, 11-21.

※8 菊池健史(2017)『オキシトシンによるヒトとイヌの関係性』The Japanese Journa of Animal Psychokogy 講演論文.

※9 Nagasawa, M et al. (2015). Social evolution oxytocin-gaze positive loop and the coevolution of human-dog bond. Science, 348, 333-336, PMID 25883356.

【画像】

※ Javier Brosch, Derek R. Audette, gabczi, Carina Svardal, lapo weerasak, / Shutterstock

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